なべ

ライトハウスのなべのレビュー・感想・評価

ライトハウス(2019年製作の映画)
4.2
 ロバート・エガースは大好きだけど、とにかく話の輪郭を曖昧にしたがる癖が万人ウケしそうになくて応援しにくい。ウィッチでもそうだったけど、提示されたピース群がピタッとはまらないのがじれったい。すごく仄めかされているのに、いかようにも解釈できるって構造がね。余白が多いの。
 ライトハウスもそう。全体が仄めかしでできてるといっても過言ではない。どれほど教養があるのか試されているようなモチーフの数々。
 もしもギリシャ神話のプロテウスとプロメテウスが孤島の灯台守として派遣されたら…みたいな話。そしてもし嵐で迎えの船が来られず、就業期間が伸びたら…。もし水が汚れていて、酒しか飲めず、食料が枯渇したら…。それらがストーリーではなくシチュエーションとして設定されていて、我々観客は孤立した2人の抑圧と衝突、パワーバランス、自我の崩壊などを楽しむ塩梅だ。芸達者なウィレム・デフォーとロバート・パティンソンがこれでもかってくらいの二人芝居を見せつけてくるから、興味がある人は固唾を飲んで見守るといい。何を言ってるのかさっぱりわからないくらい酷い訛りなので、英語に自信がある人も字幕必須。
 老練なベテラン灯台守トーマス・ウェイクに扮するウィレム・デフォーは海の老人プロテウス。対する若い灯台守イーフレイム・ウィンズローにロバート・パティンソン。ゼウスから火を盗んだ男プロメテウスなのだが、そうだとわかるのはラストシーンでかもめにはらわたを食いちぎられてたから。予言をしたり、人類に哀れみを持つような描写はないから、あくまでインスピレーションとしてのプロテウスとプロメテウスね。
 もしかしたら2人ではなく1人が生み出した妄想の人物って見方もありだと思う。となるとウィンズローにはアニマ的な役割が与えられているのかもしれない。ロバート・パティンソンをキャスティングしたのも無意識が産んだ女性像っぽい顔だからかもw
 木こり時代の事件といい、チークダンスからのキスしそうな気配といい、結構危うい同性愛っぽいシーンが多い。ウィンズローの中に、女性として扱われることへの抵抗というか、なんとなく自覚はあるけど、必死に抗って男らしく振る舞おうとする演技が感じ取れるのだ。そうした仄めかしもまたエガース作品の魅力なのだが、観る人によってそうだったりそうでなかったりで、解釈の幅があるというね。そこを楽しめる人なら是非おすすめしたいのだが、ちゃんとストーリーが定まってないと納得できないって人にはちょっと勧めにくいんだよな。
 とはいえ二人芝居ならでは醍醐味は確かにあって、主客転倒するシーンとか、どっちの言ってることが本当なのか、観客の思い込みを揺るがしにくるところなんて見応え充分。やっぱり苦手な人にも一度見て欲しいな。二作目にしてこの風格、この演出、エガースはただものじゃないんです!
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