深獣九

ライトハウスの深獣九のネタバレレビュー・内容・結末

ライトハウス(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

いきなり余談だが、本作品の画角は正方形。知らなかったので何度かリロードしてしまった。未鑑賞の方向けにあらかじめお伝えしておきたい。

絶海の孤島に灯台守としてやってきたふたり。
ひとりはベテランの元航海士。
ひとりは若い未経験の見習い。
登場人物はこのふたりだけ。
嵐に取り残された孤島で、閉塞感と悪意がいつしか狂気を生む。

まずはすばらしい映像と雰囲気。
モノクロの映像。強いコントラスト。灯台の眩しい光。鳴り止まないサイレンの音と罵詈雑言。そして役者の濃い顔、鼾、屁。
視覚・聴覚を刺激し、脳にダメージを与えてくる。潮の香りと腐臭まで嗅ぎ取れるような気がする。肌が塩でザラザラになっている気もする。大脳皮質が損傷したせいだろう。

そして現実と妄想が入り交じるストーリー。
いま目に映っている映像がどちらなのか、実に曖昧でそれが不安を掻き立てる。明らかに妄想だろうと思えるシーンも、現実と思いながら観てるシーンも、いったい誰の脳内に描かれているのか。ずっと波に揺られてるような不快な気持ちにさせられる。最高だ。

人魚
かもめ
現れる昔の仲間
灯台のレンズ
ジジイの長台詞

なにが虚で実なのか。
最後までわからない。

途中までは何を描きたいのかよくわからなかったのだが、日本式の怪談と思えば腑に落ちる。閉鎖空間に着目すればキューブリック版『シャイニング』も匂う。オマージュなシーンも出てくるので、インスピレーションを得ているのは間違いないであろう。
海が舞台なだけに触手も出てくるのでクトゥルフも味わえる。
ジョークに笑い合っていたかと思えば、口汚い言葉で罵る。腕を組んで踊った次の瞬間殺し合う。ふたりの感情の高低差にこちらの混乱が極まる。
エロいシーンも差し込まれているが、ジジイと口ひげルイージなので嫌でしかない。だがそれがスパイスとなり、狂気を味わい深くしているのは間違いない。
人魚おっかない。

狂気の霧は常に漂っているものの、物語は終始静かに進む。だがクライマックスでは怒涛の展開を迎え、この作品がホラーなんだと思い出すことができる。
灯台の光源(ライト)に執着を見せる主人公。ラストではついにそこへたどり着く。恍惚の表情を見せる主人公。だが光の中にある何かに狂気は極まり、物語は終幕を迎える。
最期はけっこうエグい。良き。

まあとにかく、濃くて重くて黒くて苦いのである。このあたりはA24のお家芸。どの作品も不安と狂気が染み込んできて精神をゴリゴリ削ってくるのだが、この『ライトハウス』も例に漏れない。どうやってこんな作品を見つけてくるのか。あるいは制作するのか。賛辞を捧げたい。
深獣九

深獣九