海

シシリアン・ゴースト・ストーリーの海のレビュー・感想・評価

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生きている人間は、本当にいつだってずるいと思う。わたしを置いてどこかへ行ってしまうあなたのことを、それでもここに居てくれるだろうかと目を閉じ、わたしの中で死なないでいてくれるだろうかと夢見る。なんて勝手でずるいんだろう。誰かが死んでしまうとき、誰かにとって愛するひとであった誰かが死んでしまうとき、わたしはまるで自分が加害者であるかのように、冷えた指先を風にさらしてしまっていた。温めるべき生きたからだを、今晩は、ぎゅっと抱いた。勝手でずるくて、いいのだと思った。いいのだと思っても、いいのだと思った。もうここには居ない誰かを、生かすことができるのは、いずれ死んでしまう生きているわたしたちだけだ。一瞬と永遠が違うことは、生きているあいだくらい、知らなくてもかまわないだろう。これをラブストーリーと呼ばずして何と呼ぼうか。波打ち際のルナを捕まえた腕が誰のものであろうとも良かった、わたしはあのとき見ていた。何度でもどんな小さなことからも彼女をすくうであろう彼の姿を見ていた。音楽やペンダントやことばと同じだ、ただそこに在ったことが今もここに在ることを証明する。手をつなぎ回り続けている星の一つである子供たち。わたしたち。ひとは天使になる、こうやって天使になる。
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