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教誨師のbebeのレビュー・感想・評価

教誨師(2018年製作の映画)
3.1
佐伯→教誨師、主人公
吉田→気のいいヤクザ
進藤→ホームレス
野口→おしゃべりのおばちゃん
小川→面会待ちのお父さん
高宮→子生意気なふてこい若者

 高宮を除いて、「死刑囚」という言葉がもつ質量み見合うほど、狂気と脅威を備えた人間にはおよそ見えない。分かりきったことではあるけれど、死刑囚は社会の中から生まれるのであって、ここで「我々」と「罪人」という区別が揺らぐ。罪人とは「悪い人」を指すのではなくて、「今あるルールに反いた人」を指す。彼らに対しては少しの哀れみを、それから自分の未来に対しては一抹の不安を覚える。
 ところが一転して、彼らには本質的に「凶暴性」が備わっていることを知る。

 ここで我々はどう観るべきなんだろうか?
「ああ、やっぱり死刑囚は恐ろしい」と一貫して自分を死刑囚と区別し続けるだろうか?「やはり人間は自分自身のためになら何でもできる恐ろしい生き物だ」と、自分をその枠組みの内側に入れるだろうか?
 この映画は、少なくとも主人公である教誨師は後者の判断に至るのだろうと思う。そして我々映画を観るものとほぼ同じ位置でこれらの問答を聞いた監視員は。

・何でイルカは食べちゃダメで、豚や牛は食べていいのか?
・50、60にもなって誕生日会をしてるのはヤクザと政治家くらいなもんだよ。
 子供のような屁理屈だけれど、大人になってもこういう違和感を諦めきれなかった人たちを思うともの悲しいですね。(他人事)

 社会の矛盾は別に深く考えなくったってその辺に転がっている。国という単位で本質的に自己中な人間の集団をまとめる、という土台無理な話をクソ真面目にやってきたのが人類で、その過程で矛盾、理不尽、不条理なんていうのはいくらでも出てきている。
 現代で言うところの「道徳」とは、あくまで「社会道徳・市民道徳」しか指さない。

諦めに近い気持ちになる。すごくメランコリックな対話集。
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