むさじー

クレアのカメラのむさじーのレビュー・感想・評価

クレアのカメラ(2017年製作の映画)
3.6
<男女の機微を巡る大人の童話>

映画会社で働くマニは、カンヌ国際映画祭への出張中に突然、女社長のナムから解雇を言い渡される。仕方なくカンヌの街を彷徨ううち、写真が趣味という観光中のクレアと知り合うが、彼女は自分が撮った相手は別人になると語る不思議な女性だった。
マニの解雇の背景には、出品映画のソ監督の恋人であるナム社長が、監督の浮気相手のマニに嫉妬してという三角関係があるのだが、クレアが撮った写真が媒介となって三人を結び付け、その関係に変化が生まれていく。やがてマニとクレアは解雇を告げられたカフェに行き、当時と同じ構図で写真を撮るのだが‥‥。
いつも通り淡々と他愛のない会話で展開するが、クレアが語る「カメラは物事を変える唯一の方法」だから写真を撮っていて「自分が写真を撮った相手は別人になる」、それは「後から見直すことができるから」という自説が引っ掛かった。何やら暗示的で「写真」と「変わる」がキーワードのようだが、どんなメタファーなのか。
写真は今一瞬の真実であって、被写体の人間は不変ではあり得ないから、時が経って写真を見直すことでその変化が見えてくる、と解釈した。言い換えると、物事はすぐには変わらないが、必ず変化するものだよ。それは男女の関係を含めて世の全てが然り、見方が変わって落ち着くものだ。そんなところか。
しかしそう理屈っぽく考えるより、即興的に撮ったからこその空気感があるので、その心地良さに浸るべき映画かも知れない。軽くて可笑しくて少し深淵でもある。
むさじー

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