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PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3「恩讐の彼方に__」のsanbonのレビュー・感想・評価

3.7
「PSYCHO-PASS3」の完全なる"プレオープニング"。

この映画企画は、全3部作を通して実に面白い実験をしている。

それは「シビュラ」の管理下にある世界が"理想的か否か"という問いをcase毎に分けて描いた事だ。

その為、caseを重ねる毎に"時間"やあるいは"環境"を後退させる事で、明確にシビュラの介入度合いに差をつけ提示する展開を見せている。

case1では、海外進出を目論むシビュラの過介入により作りあげられた、完璧に統治されたように見せかけた"かりそめの楽園"の実態を暴く事により、シビュラが孕む闇がもたらす危険性を示唆した「支配の恐怖」をテーマに掲げた作品だ。

case2では「犯罪係数」の測定基準に対する曖昧さを、人の制圧を生業とする軍隊を舞台に暴き出し、更には人ならざる者の犯罪を裁けない問題点も浮き彫りにした「SSシリーズ」中で最も「PSYCHO-PASS」の本来のテーマに則った作品である。

そして、完結編にあたる今作case3では、シビュラの存在しない国外を舞台に、逃亡中の身である「狡噛慎也」を主人公に据えて、管理されていない国の実状を近未来感を一切廃して描き出していく。

実は、case1とcase3の時代背景はどちらも同じ"2117年"の冬の時期となっていて、同じ時代でも国によってここまで発展の仕方に差が生じているというのは面白いコントラストの演出である。

また、今作で狡噛が潜伏するアジア某国にも、シビュラの選別により見捨てられた「日本棄民」の問題が介在しており、シビュラ自体が存在していない国でさえ少なからずその影響は及んでいるという点も、システムの持つ脅威的な存在感を醸し出していた。

そしてSS3部作を見る限り、この世界はシビュラがあっても無くても、どちらとも理想とはかけ離れている事が分かる。

表面上は犯罪が未然に防がれ平和に見える世界も、水面下では常に何かしらの犠牲のもとに成り立つディストピアであるし、平和維持の行き届かない世界も、日頃からゲリラや内紛が勃発し安全とは言い難い生活を強いられている。

つまり、どちらも生きるには苦しい世界に変わりはないのだ。

だからこそ、このシリーズは「人との繋がり」をもう一つのテーマとして掲げていたように思う。

case1の"擬似親子"

case2の"立場を超えた友情"

case3の"師弟関係"

必ず事が動き出すキッカケは、こういった深い絆を守る為であったというのも、システムという無機質な存在に翻弄され、それに抗おうとする物語において、非常に信憑性の高い原動力になっていたと思う。

このように、この劇場3部作は"一貫したテーマ性"と"実験的なテーマ性"を巧みに掛け合わせて作られており、これまで追ってきたファンへのサービスは勿論の事、最後には三期に向けての期待値もしっかりと上げてくれる展開で締め括られている為、3のプレオープニングとしては上出来の内容となっていた。

また、このSSシリーズは三期に関わってくる内容をいくつか内包していた為、テレビ新シリーズが始まる前にあらかじめチェックしておく事をオススメする。
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