柳之貓

劇場版総集編 後編 メイドインアビス 放浪する黄昏の柳之貓のレビュー・感想・評価

4.4
開始早々ハードな展開になるけど、ナナチが出てきて雰囲気が和らぐ。

暗い設定が続きながらも「おぁ?」とか「んなぁ」とか、ナナチの喋りカワイイなぁと思ってたら超ド級のトラウマ展開…
映像的にも去ることながら内容がキツい。
何があっても視聴者にずっと続く平穏は与えないって意気込みみたいなのが感じられるようだわ。

ミーティの下りにリコを介入させなかったのはよく考えられてる。
庇護されてるみたいに映るから誤解しがちだけど、縦穴での囮にウサギを放り投げたりと、恐らくリコは見た目よりもずっとシビアだから、視聴者の気持ちに寄り添えるのはレグだったのだと。そういう意味ではリコよりもずっと純粋だな。

でも、キツいシーンが過ぎたあと、リコの性格には救われる気がした。
正直なところ、後半の冒頭で、周囲の危険に気を配り続けるレグに対し、リコの脳天気さにはちょっとイラついたりもしてたんだけど、目覚めた後ではこちらもホッと一息つけた。この辺のバランスがとても上手い。

『まどマギ』では割と平気だったはずの鬱展開が今回かなりキテるのは、安楽死を思い起こさせられたからだ。ペットを飼ってる身としてはつまされるモノがあった。
作中でキャラが感情をほとばしらせてるから、こちらは目頭が熱くなるに留まったけど、ちょっとやそっとでは忘れられないものにしっかりなっている。

表現もおざなりにしないでギリギリまで描写するから、もうちょっとボカしてくれたり、早く切り上げてもらいたかったりもあったけど、ただいたずらにグロくするのではなく、真摯に向き合った結果なのだと感じた。そこはエヴァ新旧劇場版の弐号機とは違って見えたところ。
また作品自体も、鬱展開にする事で話題になるって単純な狙いでも無いだろう。
視聴者の多くは、ミーティに心痛めても、ガンキマスやタケグマ?に同じ熱量で何かを感じたりはするまい。同じ命であっても、思い入れなどによってそこに区別を付けている。それは共感や同情などの人間性に拠るものだが、甚だしく不平等な考えだ。登場時はおぞましさを感じたナキカバネだが、後半ラストの子育てシーンでは可愛らしいく見えてしまった。恐らく色が白とピンクでフワフワしてそうだからってだけで。
黎明卿はあたかも外道のように描かれているが、果たして医療の歴史や製薬会社・化粧品メーカーの動物実験との違いがあるだろうか?検査液としてカブトガニの体液を抽出する様も相当にエゲツない。「人としての運用をしていない」者を相手とした彼は、極北の地で謳ったように大志に準じているのみで、異常なところと言えば線引きが一般的でないってだけ。しかしその線引きもまたもともと恣意的で勝手なものだ。
このように人間社会にも関わりのある事を描く事で気付かせ、考えさせられる余地がある上で、この作品は複雑な構造をなしていると思う。

映像美の冒険譚って感じの前編から打って変わっての、重い展開の後半。でも世界の深みと謎がグッと深まり、重厚さを増した様だ。
心構えを要すから気軽に観れないけど、鑑賞途中での心がざわつくのに比べると、観終わった感じはそれほど悪くない。
柳之貓

柳之貓