専業主婦の不可避的な抑圧と倦怠から自らの性を宿命的に解放させていく「団地妻」なる神話的存在の生成装置として団地を取り扱う視座と円環構造が、西村昭五郎のシリーズ最終作にふさわしい総決算感。モニターやマジックミラーといったインターフェースが取っ払われたセックスライブ見学や、大量の鳩が強姦を取り巻く祝祭的空間の異様性も突き抜けていて楽しかった。

☑️『団地妻・昼下りの情事』及び『団地妻・ニュータウン禁漁区』▶️▶️
勿論一般的には評価されていたのだが、個人的にたいして観ずに過小評価していた映画作家も結構多い。鈴木則文や、『団地妻』シリーズ等で、’70年代日活（にっかつ）を支えた～『トラック野郎』と同様で会社看板的ヒット映画シリーズはダメな映画が多いと決め込んでた～この作家は代表的だ。名前だけは聞いてたが食わず嫌いで、’90年代に入ってやっと観た『競輪上人～』の豊かさへの圧倒的驚愕で、事態は一変する。封切り2．3年後かに観てて何とも思ってなかった『団地妻』一作目は、改めて観ると、最適密着と誘導のカメラワーク・90゜や高低他の角度やサイズ取り・照明他の色彩・リズムと密度らの技術のレベルと詰めかた、役者の自然さとキャラの色づけ・日常性のしっかりした細部と空気、とにかく映画として一級品であることに気づかされた。曽根中生・田中登・小沼勝・加藤彰・村川透らの気鋭ぶりに比べ、同じくロマンポルノ以前に監督デビューしていた神代辰巳と並び横綱相撲の感。そして破滅に至るここの人物たちは、急激な社会の変容に自分を見失い、振り回され、押し流されていった農村共同体の殻をお尻に付けた本来善良なひとたちに見え、微笑ましさ・歯がゆさ・いとおしさ・小ささ・愚かしさ・そぐわぬ悲劇を共有してゆける。いまも残る、日本人の論理性を外した・美徳に流れてるようで必要なとき大事に向かい合わぬ姿の原型がある。
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しかし、『競輪～』以降ロマンポルノ以前の作品は何本か追いかけて唸ったりもしたが、ロマンポルノ期はごく僅かしか観なかった（いや、以前本命の併映作で意識なくすこしは観てきていたのだが）。そして今回、いきなりシリーズ西村の手掛けた最終作。同じ不条理独自規則世界が描かれてても、ちょっと驚いた。時代が１０年間で社会を急速に共同体の閉塞と分裂・個の孤独と狂気に追い込んだことへの忠実な反映かも分からないが、この悲劇・奇怪劇を巻き起こすは、社会の歪み以上に、儚く見えてじつは圧倒的過敏独善逐次変容ヒロインを中心とした、全登場人物の、孤独・寂しさ・惰性・不安を越えた、自らが生の発露とばかり他人に対し、挑発し策を奇怪に張り巡らし・破滅まで追い込む、魔性のいきいきし同時に痛々しい動き出したらどこへ向かうか分からない、人間の本性そのもので、その暗躍・その絡みに絡んだ相関関係である。タッチは余裕よりも、瞬間瞬間の神経症的内面の突出続き・肉体の動物的なモラル制止不能に従い、詭うく怪しく揺らぎ刺し続けてく。これって、もうキム・ギヨンの『～女』シリーズの怪物的女の流れに相当？ 改めてロマンポルノ期の西村を纏めて観る機会を持たねばと思った。

干渉陵辱裏切り復讐を経て立派な団地妻に完成した仁科まり子さん、冒頭とラストの華麗な入れ替わりにこちらも心地よいカタルシス。フリルついた妻のエプロンで浮気のお詫びにと焼きそばを拵える北見さんが一瞬「スカーレット・ストリート」のエドワードGロビンソン？