木蘭

ティコ・ムーンの木蘭のレビュー・感想・評価

ティコ・ムーン(1997年製作の映画)
3.8
 バンド・デシネの大御所エンキ・ビラルによる月面植民都市を舞台にしたディストピア風SF映画。
 『ブレードランナー』を’90年代のフランスで描くと、こういう感じになる・・・という作品でもあった。


 劇場公開時は渋谷パルコ内にあった劇場で上映されたのだが、お洒落なサブカルという位置づけだった様に思う。
 久しぶりに観返したのだが・・・

現実の様で現実では無い異世界、失われた世界や記憶へのノスタルジー、ロシア語や日本語に謎のアジア人が登場するオリエンタル趣味、テクノロジーは進んでいるがアンティーク風調度品とビンテージ風ガジェット、乾燥して埃っぽい世界、CGがまだほとんどなくアナログな撮影・・・

等々、実に全てが’90年代的な作品だった。


 致死性の遺伝病を抱えながら植民地を支配するマクビー一族。彼らに生体間移植のドナーとしてとらわれながら、20年前に火災で死んだティコ・ムーン。ティコ・ムーンは生きている!という謎のチラシがバラまかれる中、次々とマクビー一族の命を狙う暗殺団。彼らとティコ・ムーンを捜索する秘密警察。記憶を失った男。彼の周りに出没する謎の娼婦レナ。ティコに思いを寄せていた大統領夫人。自分はマクビーでは無くティコの息子ではないかという思いを抱く彼女の末の息子・・・。

 様々な意図を秘めた思わせぶりな登場人物が次々と登場し、状況は複雑に絡み合う・・・のだが、話の展開は極めて単純。
 本来であればサスペンスとして描かれるであろう、記憶を失った主人公の正体や、自分を取り戻す部分はサラッと描かれ、登場人物たちの動機や心情、背景は深く説明されない。
 主人公と恋に落ちるレナの心理描写が深く描かれないのは、最たるもの。だって恋に落ちたんだもの・・・ケセラセラ・・・成る様にしかならないし、こうなるのが自然な展開だろ?っとばかりに。
 考えようによると、文学的ではないが、イメージの羅列という極めてコミック的な表現かも知れない。

 細かなことは置いておいて、時代を経ても色あせない魅力的なビジュアルイメージ・・・特にレナを演じるジュリー・デルピー・・・に酔いしれたい。
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