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氷上の王、ジョン・カリーのみおこしのレビュー・感想・評価

氷上の王、ジョン・カリー(2018年製作の映画)
3.9
以前町田樹さんのステージを拝見する機会があり、スケートの魅力を堪能したので、そんな彼が字幕の監修をされたという本作を観に行ってきました!
バレエとアイススケートを融合させた圧倒的なパフォーマンスにより、スケートをスポーツ競技のみならず芸術としても昇華させる大きな貢献をしたジョン・カリー。そんな彼の知られざる生涯にフォーカスしたドキュメンタリー。

LGBTの運動が盛んとなり、同性婚も認められるようになってきた昨今。HIVへの理解も社会的に深まってきています。しかし、1970年代はそんな現在と打って変わって極めて保守的な時代でした。そんな激動の時代を駆け抜けたジョン・カリーは、あらゆる点で先駆者だったのだなとしみじみ...。栄光の裏側で、彼が抱えていた葛藤や孤独を思うと、胸が詰まります...。彼が密かに恋人に送り続けていた手紙が何度も引用されるのですが、普段ならば絶対に口にできなかったであろう彼の本音が文面に迸っていて、目頭が熱くなりました。

完璧主義ゆえに、アイススケートのパフォーマンスにも高尚かつ美しい要素を追い求めたカリーは、幼い頃から親しんできたバレエのカルチャーを取り入れた、全く新しい演技を披露。そんな彼の貴重な演技の映像も初期から晩年までたくさん見られたのも嬉しかったです。
特に立ち上げたカンパニーでの公演の様子は圧巻でした。氷上の上で踊っていることを忘れてしまうくらいには、一糸乱れぬ美しい演技。ひとりの演者としても監督としても、優れた才能が垣間見えました。

クイーンのフレディ・マーキュリーに対しても『ボヘミアン・ラプソディー』鑑賞後に同様のことを思いましたが、俗に"天才"と称される人たちほど、人目を忍んで誰よりも努力を重ね、プレッシャーと日々戦っているわけで。カリーにとって非常に生きづらかった時代に、今もなお多くのフィギュアスケーターたちが志すパッションや技術、文化を生み出した彼の功績の偉大さは言わずもがな。こうした先人たちの葛藤があったからこそ、どの芸術も長きにわたって続くものだと改めてこの映画に教えてもらった気がしました。
本作の存在がなければジョン・カリーというスケーターの存在を知ることができなかったと思うと恥ずかしくなってしまうくらい、スケート史に名を刻んだ偉人の存在を知られて良かった!!とっても充実した89分でした。それにしても知れば知るほど、スケートは壮絶な競技であると同時に美しい芸術表現だなぁ...。
町田さんによる字幕監修と伺いましたが、私のようにスケートの知識に疎い者でもとても楽しめる作品になっていたのは、分かりやすく的確な翻訳も大きな一因だったと思うので、素晴らしかったです!
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