茜雫

若おかみは小学生!の茜雫のレビュー・感想・評価

若おかみは小学生!(2018年製作の映画)
3.5
ずっと観たいと思っていたので観られて嬉しい! が、原作よりも映画が先になってしまって悔しい。
世代。ド世代。我々が小学生の頃の覇権作品といえば、夢水かパスワードか黒魔女か、そして若おかみだった。
その、児童書のトップとも言える作品のひとつを観られてよかったです。

物語としては、うんうん!児童書だ!という感じ。「状況にくよくよしないで頑張ろうよ!」という内向的なテーマと、「他者を拒絶しないこと、受け入れること」という外交的なテーマを上手に混ぜていたかなと思います。
くすっと笑えるところと泣けるところの塩梅も上手。ストーリーはとんとん拍子に進むけど、児童書を映画にするのであればこんなもんだよねというか、許せないほどのご都合主義はなかった。
ただ、始まりから結構衝撃的だった。これ……これ、ここから始まるのかぁ…………。映像としてのショックが結構大きいので、児童書タイトルでそんなことしないでよ、という気持ちもありました。

演出はとてもよかった。絵も綺麗で、最初は窓の外のヤモリに逃げ惑っていたおっこがトカゲを助けるシーンとか、成長の描き方も素敵だった。車でフラッシュバックした時に水領さんの声がくぐもる感じとか、上手いなと思った。
その後に急にウリ坊たちに気づいたりして、怒られた時とか悲しい時とかに会えていたことを考えると幽霊たちってもしかしておっこのイマジナリーフレンドだったのかな?と後から思いました。だとすると、最終的にはそのイマジナリーフレンドがいなくても生きていけるようになったという成長譚としての描き方でもあったのかな。

という点で映画としてはよかったのだけど……うーん、キャラと、思想的な点がちょっとキツかったなぁ。
だいたいみんなに受け入れ難い部分があって、そこが人間らしいでしょという言われると否定はしきれないけど、普通にムカついた。何やねんコイツってなっちゃった。

思想的な点、というか、作品の大前提ではあるんだけれども……小学生のおっこが唐突に両親を亡くして、その直後からウリ坊とエツ子さんが押し切る形で若おかみにさせたがる。まだ「お父さんもお母さんも生きている気がする」と両親の死を受け入れきれていない小学6年生にさせることじゃないよね、というか。きちんと受け入れたうえで悲しみに浸って涙に明け暮れるような時間をあげて、その上でおっこが納得して自ら若おかみになりたがるような流れならよかったのにな、と思ってしまった。春の屋がおっこにとって「若おかみとして」ではなく、「ただの関織子として」ここにいてもいいんだ、と思えるという流れがあった上で、おっこが若おかみになることを選んで欲しかった。
あとラストの流れがキツかったなぁ。原作にはないシーンなのね。さっきの解釈を元にすれば、イマジナリーフレンドとの対話もできないくらいに傷ついていたわけで、うーん……あの演出があったからこそ映画として綺麗にまとまっているんだけど、あの演出によって、おっこの抑圧の強さが浮き彫りになっており、シンプルに心配。おっこ、本当に良い子だから、自己を殺しすぎないでまっすぐ生きて欲しいな。


2023_11
茜雫

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