かるまるこ

ソニック・ザ・ムービーのかるまるこのレビュー・感想・評価

ソニック・ザ・ムービー(2020年製作の映画)
3.5
【BlackならぬBlue Life Matter】

「青い宇宙ハリネズミも人の内に入る」

人を救いたいと願う心優しい警察官トムとその妻マディとの間で交わされるこのセリフが、本作のスタンスを端的に表している。

原作のゲームの方はどうも昔から性に合わないし(リングの取りこぼしが気になって先に進めない…)、音速で行動出来るソニックが激強過ぎて様々な困難を乗り越えていく展開を作りにくく物語化への難易度が非常に高い気がして全然期待してなかったが、この映画が「人とは違うマイノリティ」の話だと気づいた時、その手があったかと思わず膝を打った。

確かにプロットの展開だけみると勧善懲悪のご都合主義で新味もなく、はっきり言ってつまらないし、ソニックの足とリングさえあれば太平洋もエジプトも万里の長城だって一瞬で行って帰って来れるので彼の前では通常の障害やカセが成立せず、案の定カタルシスも半減してしまっているという問題点がある。

だが、その欠点を補って余りあるほど、本作はキャラ造形が良い。

何よりソニックの底抜けの陽気さ。
クイーンの『ドント・ストップ・ミー・ナウ』で踊り、一人二役で卓球をし、音速で移動して友達役も自分で演じる。

「異能がバレぬよう身を潜めて暮らしなさい」という言いつけを素直に守り、独りぼっちで暮らすソニックの孤独感が、その底抜けの明るさ故に却ってひしひしと感じられ、とても切ない。

一方、敵のエッグマン博士は、傲慢なインテリで誰彼構わずすぐマウントを取りにくる姿勢から「成功」や「上昇志向」の象徴として描かれていて、ジム・キャリーの過剰な演技も相まって、登場してすぐ、あ、コイツ敵だな、とわかりやすくて良い。

しかも「成功」の象徴としてのエッグマンと、野山を駆け回る純朴なソニックとの戦いが、サンフランシスコ市警になりたいと願うトムの「上昇志向」と、地元を離れたくないという葛藤の現出とも捉えることが出来、その点は非常に上手く出来ている。

『白雪姫』に「毒リンゴ」が不可欠なように、物語には、さらには人生において、「呪い」は付き物だ。
「姿を隠して生きろ」と言われたソニックは、親が子に与える中で恐らく最悪の「呪い」ーー「存在するな」という「呪い」を引き受けねばならなくなる。
生きるとは、親から陰に陽にもたらされるこうした禁止や命令を如何に乗り越えていくかだ。
真に子を思い、真に親を思い合うからこそ成立する類いの悲劇的で強大な「呪い」に、ソニックがどう打ち勝っていくのか。それが本作のテーマだ。

単なる子供向け映画ではない。
ここにも誰かの人生が刻まれている。
かるまるこ

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