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レッスル!のkissenger800のレビュー・感想・評価

レッスル!(2017年製作の映画)
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オ・ダルスとユ・ヘジンをなんとなく同じ箱に入れているんですけど、どう考えても扱いが違いますよね。それは何故。という思いが抜きがたくあるものの、この作品に関していえば儒教的価値観の根強さにね、山本夏彦(という昭和の名物コラムニストが居たんですけど)のことばを想起せずにはいられないのです。いわく、

「孝は自然の情ではない...中国人が三千年かかって教えて作りあげたモラルである。本来自然でないのだから、新憲法で孝はしないでいいときまったら完全に滅びた。いま私たちの老後の諸問題は昔はみな孝が始末していたものである」

またいわく

「人間以外の哺乳類は親は子を育てるが子が一人前になると互いに赤の他人のようになる...孝は中国人が何千年もかかって創り出したモラルだったのである...けれども元来自然の情ではないのだから、強いるなと禁じられたら僅々二三十年で滅びてしまった」

つまり日本において「親孝行」という概念は滅びた、と山本は(30年前のコラムで)言っているわけですがお隣では滅びてないんだねえ、という感慨を、しみじみ思ったわけ。

主人公と息子しかり、主人公とお母さんしかり、近代化とは情念の希薄化のことだと思ってきた我々にとって、ここで見られるようなkinshipの濃さは、さぞ鬱陶しかろうという思いと同時に、失ったものを見る羨望があります……よね? ない?
物語としては、よくこんな細い一本線を2時間にふくらませたな、おい。という感想なんですけど、背後の「孝」という概念の強烈さにアテられて、うはー。ってなったのでした(あと、男尊女卑の思想の話もあるんだけど、それはまあ別の話)。
またユ・ヘジンこういうの、似合うよねえ。
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