やーすけ

バーニング 劇場版のやーすけのレビュー・感想・評価

バーニング 劇場版(2018年製作の映画)
3.8
若い頃って暗い出来事が多くて、良いことがあっても一瞬で元通りという経験がある。主人公ジョンスの境遇も他人事とは思えない。物語を振り返ると、ジョンスがヘミと体を重ねる序盤のシーンは、孤独なジョンスがこの物語の中で最も満たされている場面だろう。ベッドサイドに展望台からの反射光が差し込み、消えていくさまはその小さな幸せのはかなさを象徴している。

その後、ジョンスは悪いことをしてないのに、どんどん状況が悪くなっていく。裁判所への嘆願書を集めても、あんな男といるなとヘミに注意しても、必死にビニールハウスをかけずり回っても、結局、全てが徒労に終わる。ジョンスに落ち度がないわけでもない。働き口が見つかったのに放棄してしまったり、これは推測だが、ヘミとの関係は猫の世話に対する対価に過ぎないのかも?という相手の狙いに気づかない、うぶなところだ。多くの謎をはらんだこの物語では若いということが悪くはたらく。

そして終盤のシーンへ。やはりヘミの部屋で今度は一人黙々とノートPCに何かを打ち込むジョンスの姿がある。もし、ジョンスが小説を書いているのなら、すぐ後の悲劇的なラストはジョンスの創作だと解釈できるが、シーンの順番上、その判断は観客に委ねられる。ここで興味深いのは、ノートPCを打つジョンスを写すアングルだ。不安を掻き立てる謎やメタファーが横溢する物語で唯一、「幸せ」を喚起させるのが展望台からの反射光だが、このカットではカメラの目線が反射光をなぞったラインと重なる。物語を見ている観客もまた、ジョンス、ひいては同じような境遇の若者が幸せでいられる光になりうると言いたいのだろうか。もっとも、このカットは夕暮れ時、序盤と同じ昼間であればこの解釈がはっきりしてくるが、たそがれ時ではそれすらもはっきりしない。謎のままだ。
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