このレビューはネタバレを含みます
"バーニング 劇場版"(2018)
『在ると思い込むのではなく無いことを忘れる』
村上春樹氏 短編原作でイ・チャンドン監督が"納屋を焼く"からインスパイアして、大幅に脚色した作品
以前NHKで放送してたけど、
さらに先がある完全版
村上春樹氏は、William FaulknerのBarn Burningを読んでいないと話していたそうだが、、
<納屋を焼く>
納屋を焼いているかもしれない→真偽不明
<Barn Burning>
父親が納屋を焼いているかもしれない・撃たれたかもしれない→真偽不明
芸術なら"オマージュ"
音楽で例えるなら確実に"サンプリング"
した作品なのは間違いない
個人的に
David Fincher監督の"セブン"
に通じる雰囲気が作品中に
常に漂っていて
"不吉で不気味で生ぬるい空気が最後一気に爆破する"
バーニングは
相当量のメタファーを多用していて
"ビニールハウスを焼くのが趣味"
"もう燃やした"
"近過ぎて見落とした"
女性の会話中の
"あくび" からの" 退屈さ"
猫を飼い始めた名前のない猫
"ボイル"
彼女にあげた"ピンクの時計"
失踪前にヘミからの"謎の電話"
様々な発言や描写から多くの人が連想するであろう
"焼く"≠"死"のメタファー
ベンが料理を自分で作って食べる行動『神に生け贄をする』
ヘミを探してるときにベンがいう
『ヘミは"煙"のように消えた』
ジョンスが父によって母の服を無理矢理"燃やす"ことによる"母の抹消"
葉っぱを吸ったあとに
ヘミが脱いで踊るシーン
Miles Davis "死刑台のエレベーター"
実際ヘミは
"死んだ"のではなく"消えた"わけで
全て憶測で、何一つ証拠すらない
小説家を目指すジョンスにベンは
「どんな小説が好きか・どんな小説を書いているか」を質問して能力を観察している
ビニールハウスを燃やした後、ベンの薄ら笑いで全てをけむに巻いてる
『泣いたことがない』
連続殺人鬼にありがちなサイコパス且つスマートでブレがなく完璧な佇まい
この作品の凄さはまだあって
現代の情報過多
今の場所に対する居場所のなさ
目的意識のなさ
国内部の格差問題
若者の失業率の高さ
社会への苛立ち・不満...etc.
舞台は韓国で文化背景が異なるが
経済的困窮は日本も同じように通じるものが多い
物語の根幹にある国の問題点と3人の立ち位置がコントラストになって様々なことを浮かび上がらせつつ、常に訴えかけてくる
最終的な答えは
『燃やすことにより、
煙のように消える』
をジョンスが裸になって
語ってくれる
ヘミがパントマイムに魅せられ、
残した言葉
『在ると思い込むのではなく
無いことを忘れる』
が常に胸に刺さる。
そしてヘミはアフリカで感じた
"地平線が沈むように
消えてなくなりたい"
を見事に体現する
監督は"青春映画"と称しているが、
観終わったあとに残る妙な"残り香"
が印象的で、いつまでも頭に残る
魅力的な面と
ハッキリとした残酷さ
を兼ね備えた素晴らしい映画