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毒戦 BELIEVERのmofaのネタバレレビュー・内容・結末

毒戦 BELIEVER(2017年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

本当に面白かったですね。
124分アッという間なんですよね。
そして、冷静にみると、
このキャストは最高ですがな・・・

キム・ジュヒョク様の強烈なハリム・・・・
突き抜けてて、凄かったです。
残念ながら、この作品が遺作になってしまいました。
この後、交通事故で急死されたんですよね。
この作品を観ると、本当に残念だな・・・
という気持ちが込み上げてきます。

そして、ハリムのパートナー役をチン・ソヨン様。
こちらも、強烈でしたね・・・・
役者魂を感じたわ!

チャ・スンウォン様は、ブライアン役で・・・。
「私たちのブルース」のイメージとは、
また違っていて、
面白いキャラクターでした。
「イ先生」になりたいという野心家
信仰心があるだけに、その乖離が不気味です。

そして、「ミセン」「夫婦の世界」の
パク・ヘジュン様
凄むけど、見事な小物感(笑)

3人それぞれ、完全にイカれているんだけど、
同じではないのが面白い。
大袈裟なように感じつつ、そのキャラクターが
しっかりしているので、全然飽きないんですよね。

もちろん、主人公の
チョ・ジヌン様も・・・・
もう、なんていうかさ。
ラクを見つめる目が、いつも潤んでていてさ。
ウォノの優しさが滲みでてるんですよね。
この作品では、このウォノの優しさが、
どれだけ表現出来るか・・・
っていうのも、ポイントだったと思うんです。
漢の世界で、乱暴だけど、優しさが滲み出る。
そういうものを、見事に表現出来てたと思います。

ラクに対する、憐み、同情・・・・怒り。
彼自身も、その感情に対応しきれていな感じが、
ラストに向けての切なさの、重要な伏線となっていきます。
そして、最大の見所は、ライカを吸引した後の反応ですよね。
血管切れる・・・切れてまうで・・・
と心配してしまう程の、リアルさでした。
これ観たら、麻薬なんて試そうと思わない。

そして、最大のキーマン
狂人3人とは真逆の静かさを持った男・ラク。
もう、この虚無感は何なんでしょう。
両親が目の前で、ヤクで死んでいくのをみて、
そのまま拾って貰った先は、
麻薬組織の雑用・・・という
環境だった。
そういう環境で育っていなければ・・・
犬を愛し、育ててくれた母親を大切にし、
聾唖の友人たちと友情を育む、
素直で優しい青年だったはず。
そんな彼の本質を、
ウォノは見抜いていたのだと思う。
ラクもまた、自分が何者であるのか・・?
という問いの答えが、
ウォノにあるのだと感じた。
「イ先生」である自分を執拗に
追い詰めてきたウォノだからこそ、
自分の存在意義を教えてくれるんじゃないかと。
そう期待してしまったように思う。

あまりに切ない状況下での出会いは、
それでも、2人に信頼という関係を
築くことになっていく。
リ・ジュンヨル様の演技は、静かで、
孤独で、虚無感で満ちている。
きっと物心ついた時から接してきた
バイオレンスな生活が、
彼を傷つけ、怯えさせてきた。
その結果、そういったものから身を護るために、
彼は鎧をつけ、孤高の人になったのだと思う。
そんな想像をさせる、
リュ・ジュンヨル様の演技が、
素晴らしいとしか言えないんですよね。
夕日を見つめる時、
ラクは何を想っているんだろう・・・

この作品の大きなポイントは、
「イ先生」は誰か・・・って事なんですけど。
正直、映画をある程度観慣れている人ならば、
もう、すぐ様分かります。
私も、ラクが現れた瞬間、
「あ。これがイ先生やな」
と分かってしまったクチです。

これをね。
マイナスポイントにするかどうかなんですよ。
「真実の行方」
「ユージュアルサスペクツ」
の最後のような、アッと驚く結末と、
同じ土俵で評価していいかどうかですよね。

上記2つの作品に比べると、
「イ先生」の正体なんて、
簡単も良いところです。
 けれど、この作品が、観客を騙す・・
という所に重きを置いているかというと、
そうでもないと思うんですよね。

 そこがね。違うと思うんですよ。
「イ先生」が誰か・・・という事が、
最大の見せ場ではなく、
ラクとウォノが同じ時間を過ごす過程が、
この作品の醍醐味なんじゃないかと。

ウォノが犬を「ライカ」と呼んだのは、
心の奥底で、
ラクが「イ先生」ではないかと疑っていたからで。
この時の表情が、
疑ってしまう自分に嫌気が
差している風にも見えるし、
犬が反応を示した時には、
怒りというよりも、
落胆が大きいように感じた。

最後の銃声は、確実に、
ウォノがラクを撃ったんだと思う。
ラクに同情しているけれど、
そういう環境しか知らずに
生きてきたラクにとって、
もうそれ以外の道があるとは
思えなかったんだと思うんですね。

ラク自身も、
自分が何者かも分からない人生を、
これ以上
生きていたくなかったんじゃないかと思う。

対峙した2人は、
互いに互いを赦したんじゃないかと思う。
不幸な生まれで、
そういう環境でしか生きられなかったラクの、
数々の悪行を。
この1発で赦し、
一人の人間として死んでいく事を。

そして、自分に銃口を向けたウォノ自身を、
ラクは、それが「救い」だと感じ取り、
赦したのだと思う。

ラクは社会が置き去りにした、小さな心だった。
それを、初めて感じ取ってくれたのが、
ウォノだったのかも知れない。

最後のシーンで、銃声が鳴り響くが、
聾唖の青年たちにそれが届かないのが、
切なさを助長させる。

けれど、不思議と後味の悪さはない。
ウォノに撃たれ、テーブルに顔を預けたまま、
目を閉じたラク。
広がる血液の生温かさを感じながら、
死への恍惚を堪能する。

その表情は、苦しみはなく、きっと穏やかだ。
恐怖と孤独感から解放されて、
優しい一人の青年になれたのだ。
ウォノは、
「幸せだったことがあるか?」と聞いた。
答えないラク。
ラクの人生を想像し、
大きな憐みの渦が、流れ込んできた。
おしまいにしてあげなければ。
震える手で銃口を向けた。
ラクは、無表情のまま、抵抗もしない。
ラクの罪の為でもなく、
その罰のためでもない。
彼自身のために、引き金を引いたのだ。

という事で、俳優陣の演技が、
完璧でした。
脇役である聾唖の青年2人も、
かなり存在感があって、
彼らと、ラクの歪な世界での友情が、
不気味でもあり、美しくもありました。
そして、麻薬取締官で、
ハリムのパートナーとして、
乗り込んだ女性捜査官も、
痺れましたね。
アクションも素晴らしかったです。

脚本も面白かったですね。
潜入捜査で、それぞれの役を演じるっていうのは、
かなりドキドキしました。
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