ちぢみりゃんまち

バグダッド・スキャンダルのちぢみりゃんまちのレビュー・感想・評価

バグダッド・スキャンダル(2018年製作の映画)
4.1
 国連最悪のスキャンダルと名高いバグダッドスキャンダル。実話です。物語はエリート主人公マイケルの国連職員転職面接で幕を開けます。亡き父の元同僚で現国連事務次長のパサリスの鶴の一声でいきなり国連事務次長の特別補佐官に大抜擢され、「石油食料交換プログラム」という人道支援プログラムの担当を任されますが、その計画には利権をかけた壮絶な政治的裏側がありましたというお話です。

 WHOと中国を巡る癒着問題は記憶に新しく、また、イラク戦争の裏を巡る反戦映画なりポリティカルな映画は比較的目にする機会がありましたが、国連のここまでの大々的な不正問題は恥ずかしながら知りませんでした。
 若きノンキャリ外交官として博学卓識その一本でソ連-ロシア外交と自らの生き残りを賭けた戦いを生臭く描いた佐藤優の名著『国家の罠』『自戒する帝国』と通ずるところ多く、外交の世界の恐ろしさと緻密な政治戦略を地味ながらスリリングに描かれています。
 純一無雑、静謐ながら燃える闘志をその端正な容姿に秘める主人公マイケルはまさに大卒エリートそのもののですが、彼も政治的取引や卑劣な駆け引きを通して少しずつその闇を理解するのです。しかし、彼の素晴らしいところは「理解」と「了解」を切り分ける賢明さにあるところでした。
 これは彼の最後の方のセリフ「(告発してもどうせ)善意が産んだ陰謀だと言われるだろう。でも真実は?相手にウソをついたことじゃない。自分にウソをついたことだ。」に現れています。彼の上司は再三、「ウソはよくない、だがどう報告するかだ」というようなことを言っていますが、この、社会でよく耳にする美辞麗句と比べ、彼の純粋すぎる言葉に私は近年見失っていた本当の正義を見た気がします。
 イラクを巡るこれらの問題を通して、イラクの利権を山分けした大企業や資本家は今ものうのうと権利の上に居座り、自らが作り上げた物語と偽りの武勇伝に悠然と座っていることでしょう。国連はこの問題の調査協力を拒否している有様ですから。