天豆てんまめ

COLD WAR あの歌、2つの心の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

COLD WAR あの歌、2つの心(2018年製作の映画)
4.1
美しい映画!

美しいモノクロ映画と沁みる音楽に包まれて、
贅沢な艶やかさを味わえる映画だ。

冷戦下の1950年代の分断されたポーランド民衆の辛さよ。東側と西側の間で揺れ動き、完全に時代に翻弄される2人の男と女の濃縮な感情が迫ってくる。

美しいモノクロ映像をに憂いのある数々の歌や民族舞踊が映え、第71回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したのも納得だ。ポーランドの民族音楽として、またパリでジャズバラードとして、劇中繰り返し流れる「あの歌」がこの映画の時代に翻弄された男女の切なさを醸し、深い余韻に浸れる。

ポーランドの音楽舞踏学校で出会ったピアニストのヴィクトルと歌手志望のズーラは愛し合うようになるが、ヴィクトルは政府に監視されるようになり、パリへと亡命する。

歌手になった彼女は、公演活動で訪れたパリでヴィクトルと再会して一緒に暮らすが心の行き違いで祖国に戻る。ヴィクトルは彼女の後を追うが……この移り変わりでいかにパリが自由に溢れているかが伝わってくる。

ヴィクトルの前半の孤高な芸術家のカッコよさからパリでの落ちぶれ感が情けなく哀しい。

そして、この映画で出色なのは、ズーラを演じた女優ヨアンナ・クーリクの歌声と妖艶なファムファタール的魅力。前半のどこか田舎臭い無軌道な色気から、後半の洗練された憂いのある雰囲気まで、環境と時代変化における‘女’の醸し出す色の違いに驚かされる。

映画は音楽とロマンスがうまく掛け合うと心をそそる名画となる。
モノクロ映像の美しい質感と澄み渡る音楽が五感を研ぎ澄ます効果も挙げている。

ワインでも飲みながら夜更けに観るのがお薦めの映画だ。