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COLD WAR あの歌、2つの心のシネマノのレビュー・感想・評価

COLD WAR あの歌、2つの心(2018年製作の映画)
4.0
「キマりまくりのカット、決まりのない愛の行方」

まったく愛は理屈じゃない。
一緒にいたいけど、一緒にいたら離れることもある。
でも、離れていてもなお、心にはお互いの存在が拭えずに残っている。
心はふたつでひとつ、ひとつだけどふたつ。
自分の心に映る相手のことだから、求める理想は同じじゃない。
そして、離れるにも近づくにも困難な冷戦時代が愛を分かとうとする。

短いランニングタイム。
そこへ美しいカットの数々が贅沢に挿入され、心を表す歌と舞踊が全編に渡って響く。
2人の生きる世界は、本当は美しくなんかなかったはず。
言葉にしてもし切れない生き苦しさに満ちていて。
理屈ではない自由の愛にも、目には見えないけれど存在する深い溝があって。
世界も心も荒廃して乾ききっていたはず。

だからこそ、モノクロに映る美しいカットも。
きれいな舞も、歌声も。
そこには今にも伝わってくる寂しさや悲しみ、喪失と救いを求める”なにか”が宿っている。
その”なにか”こそ、人に言い換えてみれば心や愛なのかもしれない。

「冷えた世界」で「熱い想い」をぶつけ合う。
嫌な世の中で、いやを心の奥底から交わし合う。
その2人が心から沸き起こる歌を叫びながら行き着く結末は、静か。
身も心も削るような不協和音の絶えない世界で、あまりにも美しく静か。
2人の言葉、呼吸、そして心だけが奏でる歌が、観終わったあとにも聴こえるようだった。

歌声と演技で存在感を放っていたヒロインのヨアンナ・クーリング。
レア・セドゥにも似たその瞳に、強さと脆さの両方が宿っているのが印象的だった。
【The Eddy】でも目が離せなかった彼女だが、ふくよかだった身体は役作りのため?
だとしたら、役者根性も素晴らしい女優。
もっと他の作品でも彼女の活躍を観たくなった。
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