「キマりまくりのカット、決まりのない愛の行方」
まったく愛は理屈じゃない。
一緒にいたいけど、一緒にいたら離れることもある。
でも、離れていてもなお、心にはお互いの存在が拭えずに残っている。
心はふたつでひとつ、ひとつだけどふたつ。
自分の心に映る相手のことだから、求める理想は同じじゃない。
そして、離れるにも近づくにも困難な冷戦時代が愛を分かとうとする。
短いランニングタイム。
そこへ美しいカットの数々が贅沢に挿入され、心を表す歌と舞踊が全編に渡って響く。
2人の生きる世界は、本当は美しくなんかなかったはず。
言葉にしてもし切れない生き苦しさに満ちていて。
理屈ではない自由の愛にも、目には見えないけれど存在する深い溝があって。
世界も心も荒廃して乾ききっていたはず。
だからこそ、モノクロに映る美しいカットも。
きれいな舞も、歌声も。
そこには今にも伝わってくる寂しさや悲しみ、喪失と救いを求める”なにか”が宿っている。
その”なにか”こそ、人に言い換えてみれば心や愛なのかもしれない。
「冷えた世界」で「熱い想い」をぶつけ合う。
嫌な世の中で、いやを心の奥底から交わし合う。
その2人が心から沸き起こる歌を叫びながら行き着く結末は、静か。
身も心も削るような不協和音の絶えない世界で、あまりにも美しく静か。
2人の言葉、呼吸、そして心だけが奏でる歌が、観終わったあとにも聴こえるようだった。
歌声と演技で存在感を放っていたヒロインのヨアンナ・クーリング。
レア・セドゥにも似たその瞳に、強さと脆さの両方が宿っているのが印象的だった。
【The Eddy】でも目が離せなかった彼女だが、ふくよかだった身体は役作りのため?
だとしたら、役者根性も素晴らしい女優。
もっと他の作品でも彼女の活躍を観たくなった。