いののん

COLD WAR あの歌、2つの心のいののんのレビュー・感想・評価

COLD WAR あの歌、2つの心(2018年製作の映画)
4.0
まだ何者でもなかった頃。one of themに過ぎなかった頃。その頃に、自分を見つけてくれ、見いだしてくれ、引っ張り上げてくれ、面白がってくれた男。自分を、特別なひとり、にしてくれた男。そういう男に、女はどうしたって惹かれちゃうんだと思う。


その女がどんどん輝きだし、魅力を放ち、多くの人の認めるところとなった時。そういった時、映画ではよく、男の方が、こじらせてしまったりする。あるいは、女の方が、さらに輝く別の男性の方に気持ちがいってしまったりすることも、映画ではよくある。でも、本作では、違った。そういうお話ではなかった。終戦間もないポーランド、冷戦下でのポーランドを主な舞台として、およそ20年にわたる恋。何度でも何度でも、この恋に戻る。


暗転するごとに、時間が何年か先に進む。そのなかで、私がいちばん好きなのは、パリでのお話です。ベッドシーンは、もちょっとじっくり観たかったな。レア・セドゥを彷彿とさせる主人公ゾーラは、画面に出てくるだけで目が釘付けになります。ファムファタールという単語が、まさにぴったりの、魅力あふれる女性。そんな主人公ゾーラの、パリでのお話を、私は完全に理解したつもりになりました(思い込みです)。これが、無声映画だったら、私は弁士となって、ゾーラの気持ちを語りたいと思ったほどです。
男なんて大嫌い。パリなんてキライ。ワルシャワなめんな。あの女もムカつくー。「振れる時計の 振り子が 時間を止める」なんて、馬っ鹿じゃないの!こんな訳、サイテー。メタファー?意味わからん。ファック メタファー!!! なのに、どうして、貴方は他の人と笑顔で喋ってるの?どうして私に、他の人とも仲良くしろなんて言うの? 飲んで踊って笑って他の男の人と踊るけど💧 レコードなんていらない。もう帰るべっ。
あー、わかるわかる。笑笑


あっ、しまった!
無声映画じゃあかんかった!
このモノクロ映画は、歌声が豊穣に語るから。弁士じゃ務まらない!主役だけじゃなくて、村のひとりひとりが歌う、それぞれ固有の人物の歌声にも、心を動かされる。


少女からオトナの女へと変化していくなかで、♪オヨヨーィ♪の歌も変わる。どんどん深くなっていき、淋しさや哀しさの色合いが濃くなっていく。歌声は風に吹かれていく。田園に吹く風とともに、歌声が心に残る。



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最後の「~に捧ぐ」のクレジットに、驚くことしきり。
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