ぱんだまん

存在のない子供たちのぱんだまんのネタバレレビュー・内容・結末

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

レバノン映画ってことで観賞。

同じくレバノン映画であった『判決、ふたつの希望』は、レバノンに特有の宗教モザイクが根底にある人間ドラマが題材だったが、当作の焦点は現代アラブ世界の貧困やイスラーム世界の女性観、無戸籍児や難民といった問題を生きる少年ゼインの生きる姿。

「中東のパリ」と称されるベイルートの裏側にある貧民窟が舞台で、主人公ゼインの逞しい生き様と、彼の悲哀に満ちた瞳に宿る内なる怒りが象徴的。

素人とは思えないゼインの演技には、おそらく彼の実際の境遇も影響しているのだろうが、非常に心打たれる。ゼインのどこまでも純粋な真っ直ぐさは、彼の兄弟たちやヨナスへの愛情に繋がる。幼子達に対するゼインの眼差しは温かく、面倒を見る姿は愛くるしい。一方でゼインの心の内奥に眠る哀しみや怒りは激しく、物語後半ではそれが顕著にあらわれる。妹サハルを亡くしたことや自分に戸籍がないことに対する憤慨、サハルを助けてやれなかったことやそんな環境や境遇を自分の力では打破できないことに対する悲歎。彼の瞳にどことなく陰があり、それもまた物悲しく映る。そんな陰陽のコントラストが、この映画最大の特徴とも言える。

ゼインが、彼を無責任に産んだ両親に対して、そんな境遇を生み出した社会に対して、そうした社会を形成している国家や世界に対して、そしてスクリーン越しにただ見つめるだけの我々に対して、訴えかけてくる。観ればわかるが、「感動」なんていう陳腐で浅薄な感想は一切出てこない。言葉にならない思いが込み上げてくる。2019年上半期のベストではないだろうか。
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