いののん

存在のない子供たちのいののんのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.4
まっすぐにこちらを見つめてくるゼイン君の瞳。

観終わった直後、口をつむぐしかなかった。紡げる言葉など、なかった。私の口から出てくる言葉の薄っぺらさに、口を閉じておくしか、なかった。わかったなどと、簡単に言うことはできないし、何か適当な言葉で結論づけるのもおかしいような気がして。答えを簡単には出さない・出せないまま、心の中に持っていることしか、今の私にはできそうもない。





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時間が経って思い浮かべるのは、ラストのゼイン君の表情で、どこかに希望があると、私も思っていたいのかもしれない。


限りなく近い境遇の人を採用し、実際、現実としてあるような内容だったということだが、ドキュメンタリー映画じゃなくて、これが紛れもない「映画」だということに、深く感嘆する。映画は所詮映画なのかもしれないけれど、映画は、されど映画だ。映画の力に恐れ入る。映画にできることはまだあるかい?って、まだまだ、あるんだ、きっと。
終盤の劇判も、とても良かった。画や物語の力がすさまじく強いから、逆に、あえて静かに抑えたトーンで進行していったように感じていたが、終盤の音響は、かなり感情的だった。ゼイン君を全力で応援していることを、音響でもはっきりとあらわしていたと思う。
スケートボードにブリキ?のバケツを使っての、急ごしらえのベビーカー、その、訴求力の強さ。そしてなんといっても、ゼイン君の瞳。ヨナスベイビーの無垢な愛くるしさが、一層、事態の深刻さを際立たせる。ゼイン君も、ヨナスベイビーのママであるラヒルも、声をあげては泣かなかった。ただ静かに涙を流すだけだった。悲鳴とか嗚咽とか、そういったことは、もうとっくに諦めていて、絶望と静かな怒りと、やり場のない苦しさとで、彼らの涙は静かに流れ、流れ続けた。
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