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帰れない二人のCookieMonsterのレビュー・感想・評価

帰れない二人(2018年製作の映画)
3.6
女と男、2001年から2018年の記録

暴力によって成り上がった男が実は弱く、そんな男に依存するように愛した女は逞しい
バスに揺られる炭鉱の街の労働者の表情から始まるこの作品は、とてつもないスピードで変わっていく中国の姿を映像として見事に捉えている
急速に発展していく街と地方格差、ダムに沈む街、主要産業の変遷
時代が移り変わるとともに携帯やスマホ、WeChatなどのガジェットを利用して上手く描いている
急速に変わっていくものがあり、変わらないものがある
女は男に依存し、男はそれを利用する
ある種の共依存的な関係
情が深い女は最後までそれを捨てることができず、自らの惨めさを知った男は去る
けれど、男を別にすれば女は強い
街で偶然拾った花で結婚式に紛れ込んでご飯にありつき、金持ちを騙して金を稼ぎ、襲われそうになれば返り討ちにするようにバイクを奪う
暴力ではなく智略
女を武器にするわけでもなく、世の中を渡っていく術を身につけている
その逞しさは中国の姿に重なる
そんな女の唯一の泣き所が男だというのは旧来の女性観から自由ではないと感じさせながら、中国の男性中心社会を思わせたりする

この作品はふたりの関係性を軸に描いてはいても「二人の物語」というより、「女の物語」だ
男は添え物でしかない

男にとって女はある種の呪縛だ
女は男を助けたが、強さを競う世界で生きる男にとって助けられたことは弱みであり、忘れたい過去だ
冒頭で酒を酌み交わしながら誓った、いつまでも仲間であるという言葉は物語が進むほど無力に映る
発展する中国の中でカネの価値が肥大化し、義理人情が軽視される
そうした変化に対する問題提起ともとれるし、単純に監督の妻であるチャオ・タオへのラブレターにもみえる
どちらにしろ中国の表情は確かにここにある作品だと思う
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