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バハールの涙のAutomneのレビュー・感想・評価

バハールの涙(2018年製作の映画)
3.8
中東情勢、IS、戦場記者、女性戦闘員部隊。
ババールの憂いを帯びた横顔が美しい。
荒涼とした景色や夕焼けが静かに撮られるショットや全員で歌う唄、弾込めたりするシーンが良かった。
多くの悲劇があり、それらはたぶん映画の尺で伝えきれないくらいに重たく苦しいものだ。あくまで映画として美的に撮るという意味では、本作はその役目を果たしているが、社会性や戦争を撮る意義なんかよりはあくまでフィクションで美的感覚の映画であるというところを優先しているような気がした。
たとえば戦闘の面でゆくと、ある程度すでにこちら側の勝利が確定している上でのスタートだったり、戦争につきものである血生臭さ、拷問やグロテスクな部分は徹底的に避けている感じ、見やすさはあるけれど本当の戦争ってやはりこんなに美しいものではないというもやもやが残る。たぶん相手を捕虜にして喋らせようと思ったらある程度脅したりする必要性はあると思うんですが、味方だけはやってない風にしてあったりとか、そのあたりに意図的なミスリードを感じた。
あくまで相手も残虐非道で倫理観なしとはいえ、現実では歴史的・宗教的なものだったりそれぞれがそれぞれの正義や理由があって戦っているわけで、それをアメリカナイズして単純に善vs悪という構図にしてしまうので戦争はいつまでたってもなくならないし、彼ら自身の抱えるものはうやむやにされたまま悪として処理されてしまうのが現状である。
中東情勢の歴史を追っていても、少なくともイギリスやアメリカが早いうちに国として滅びていた方が、確実に現地の彼らは幸せになってたんだろうなと思えるので、そこのところの正当化はやっぱりなんだかなあとなってしまう。
あくまでISは悪いことやってるしそれは到底許されることはない、というのは大前提ですが。
ISの魔の手からの逃避行の、雇われドライバーのほんとに大丈夫なんこれ?みたいなリアルさや境を越えるときの"人生で最も重要な歩み"だったりの重さやリアルさは素晴らしかったです。
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