T太郎

バハールの涙のT太郎のレビュー・感想・評価

バハールの涙(2018年製作の映画)
3.8
998
フランス映画だ。
IS、イスラム国と戦う、あるクルド人女性の物語である。

2014年、イラクのクルド人自治区がISによって襲撃された。

バハールは、夫を殺害され、幼い一人息子を拉致され、妹も失う。
自分自身もISの奴隷にされ、過酷な性被害を受け続けるのだ。

そんなバハールが救出された後、クルド軍の女性部隊の隊長となり、ISと戦う事になるのである。

物語の構成は、バハールが兵士になる前、つまりISに虐げられていた頃と兵士として戦っている現在が交互に描かれていく、というものだ。

現在パートのバハールはかっこいい。
なんせ隊長だ。
統率力と状況判断能力に秀でた優秀な兵士なのだ。
上官には物怖じせず物申すし、部下の死には涙する。
仲間からの信頼も篤い。

だが、かっこいいだけではない。
厳しい戦いの日々である。
極限の緊張を強いられる毎日なのだ。
前述したとおり彼女には過酷な過去がある。
バハールのモチベーションは生き別れた息子を救い出す事なのだ。
彼女も必死なのである。

しかし、彼女の秘めた闘志と、それに伴う凜とした表情はやはりかっこいいと言わざるを得ない。
ちょっと物語にはそぐわない表現だが、かっこいいのだ。

ともに戦う仲間もバハールと同じような境遇の女性たちだ。
ISに家族を奪われ、性的奴隷として売買されていた過去を持つのである。

更に、現在パートの視点的人物であるフランス人の女性従軍記者だ。
黒い眼帯が特徴の隻眼の女性である。
彼女の夫も記者だったのだが、戦場で命を落としている。
彼女自身も片目を失いながら、一人娘を残して危険な戦場に身を置いているのだ。

そんな彼女が語る最後のモノローグは、重く心に響く。

バハールをISから助け出した人物も女性だ。
この人物はISに拉致された女性たちを救出するため、あえて自分の個人情報を晒すのだ。
テレビで電話番号を公表し、手段を尽くして連絡して欲しいと女性たちに訴えかける。

このような形でISと戦う女性もいるのだ。

以上、この作品は戦争映画でありながら、女性映画なのである。
確か、監督も女性だ。

戦時下では常に弱者の立場にいる女性たち。
特に、男尊女卑の傾向が強い中東のイスラム社会。
そのような状況の中、女性たちが力強く戦うこの作品は、女性讃歌として得難い感動を与えてくれたのだ。

多分、実話ではないと思うが、こういう女性部隊は存在するのだろう。

イスラム国に関するニュースは当時よく見ていたが、占領地でどのような事が行われていたのかは、よく知らなかった。
おそらく作品で描かれているより、もっと凄惨な状況だったのだろうが、色々知れて良かったと思う。

         完
T太郎

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