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ドッグマンのKSatのレビュー・感想・評価

ドッグマン(2018年製作の映画)
4.1
レベル1000000のジャイアンによって狂わされる、犬好きなイタリアンのび太の噺。

なんというか、男の映画だった。すべての男の人に潜在的にある暴力性や支配欲、主従関係についての寓話だと思う。

主人公マルチェロは、トリミングサロンを一人で営んで犬に愛を注ぎながら、ジャイアンのような旧友シモーネのためにあらゆる犠牲を払う。このシモーネというキャラクターの、圧倒的な暴力の権化感、絶対に叶わぬ強さを体現したような存在感は、なかなか面白い。

空き巣を手伝ったり麻薬を買ったりと、よせば良いのにシモーネの言いなりになるマルチェロ。何の弱みも握られていないのになんでそこまでするのか。

しかし、見ている途中から、実はマルチェロはシモーネの暴力性や権力に憧れていることに気付く。暴力でもって権力を持ち、人を支配することというのは、男なら誰もが本能的に憧れてしまうことだと思う。

すると、マルチェロに対する見方も変わってくる。彼は一見すると、犬に深い愛情を注ぐ優しい男だが、実は犬を飼い慣らす権力を持ち、彼らを支配することで、己の欲望を満たしているのだ。

支配される者が入れられる絶対的なモノとしてトリミングサロンの犬用の檻が度々映し出されるが、その意味するところが刑務所の鉄格子にも引き継がれていく。それを踏まえて後半を見ると、実に痛快だ。

そして、この映画はイタリアの中でもみすぼらしい場所ばかり映し出している。建物はどれも崩壊寸前に錆びつき、地面も荒れていて、風光明媚なところはほとんど出てこない(ロケ地となったのは、ナポリ近郊のカステル・ヴォルトゥルノという田舎町らしい)。出てくる人々も、みんな薄汚くて粗野だ。これは、「ほんとうのピノッキオ」や「ゴモラ」にも通じることだろう。

オーバーツーリズムに悩まされる中、外国人にイタリアへ旅行に行きたいという気持ちを徹底的に削いでくれるマッテオ・ガローネの映画を、イタリア政府はもっと褒め讃えるべきだろう。
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