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アメリカン・アニマルズのGreenTのレビュー・感想・評価

アメリカン・アニマルズ(2018年製作の映画)
3.5
「どうせバカな若者が犯した犯罪を美化した下らない映画だろう」と思ってみたら全然違くて、逆にタランティーノ以降のスタイリッシュなクライム・アクション映画を風刺ってると思いました。

バリー・コーガン演じる、美大生のスペンサーにとても共感しますね〜。ケンタッキーのような田舎に住んでいる若者にとって、大学へ行くってことは憧れだったに違いない。スペンサーはきっと、カレッジで才能のある同級生や先生に出逢い、自分の才能も開花すると思っていたんじゃないかと思う。しかし現実は、酒飲んで下らないことしているバカばっかりで、誰ともコネクトできない。

スペンサーのクレイジーな友達、ウォーレンも一緒で、スポーツ特待生として奨学金をもらっているのに、全然練習に行かない。大学に行けば未来が開ける、と親に言われ続けてきたのでその通りやってきたけど、大学に入ってみたら、実は自分はそんなにスポーツ好きじゃないと気がつく。

ウォーレンは映画が好きなのだ。大学の図書館に無防備に置いてある10億円相当の貴重な本を盗み出すにはどうすればいいか?と、スペンサーと一緒にクライム映画を見まくったり、自分の考え出した計画を想像するシーンでは、まさにオーシャンズ11さながらに、スーツを着た自分たちが華麗に、流れるように美術品を盗み出す。

二人では人手が足りないと、エリックとチャズという友達もリクルートしてくるんだけど、この子たちはみんな、きっと他の子たちより志しが高かったんじゃないかと思う。

この話は実話の映画化なので、実際に美術品窃盗を働いた本人たちのインタビューが出てくるのだけど、その中でエリックは、リクルートされた時、ウォーレンがなかなか内容を言わなかったんだけど、「とてもデンジャラスなことなんだ」って言われた時、もう「やろう」と決めていた、と言っていた。

大学の枠の中では何もチャレンジングなことは見つからなかったけど、美術品窃盗の計画を立てるというのは、本気で頭を使う、楽しいことだったのではないか。

実際スペンサーは、図書館の正確な見取り図を描き、それを元に模型まで作ってしまう。老人に変装しようと、顔にシワを作る工夫をする。私もモノづくりが好きなので、目的があって何かを作っている時は楽しいだろうな〜って思う。

これが本当に犯罪を犯すことではなくて、映画のシナリオでも考えていたのだと思って観ると、とてもヘルシーなクリエィテヴな活動に思える。

しかし実際に彼らが実行した窃盗は、あまりにお粗末でびっくりする。何一つ計画どおりに行かないばかりか、ナメくさっていた図書館のおばさんを縛ることさえ怖くてできない。

この感じがすごくリアルで、気持ちが良くわかった。確かに、怯えている人や痛がっている人を無理強いしたりするのって、すごく勇気がいる。おばさんが失禁してしまったのを見て完全にビビるエリックが気の毒になった。

犯罪を犯した後は、いつ捕まるかとビクビクして、そのストレスにみんな耐えられなくなるところも、先にウォーレンが想像した「スタイリッシュなクライム・ムービー」のようにカッコ良くは終わらないんだ!とつくづく思った。

映画の中で、図書館に置いてある貴重な本のことを”rare books”と呼んでいるんだけど、”rare”って「希少な」「珍しい」という意味があり、『アメリカの鳥類』という大きな画集には、”rare birds”、今は生息していないような鳥の絵もいくつかあるらしい。

タイトルの『アメリカン・アニマルズ』は、色んなことに恵まれすぎていて、逆に目的を見失い、スタイリッシュなクライム映画を現実と思ってしまうアメリカの若者の怖さを表しているのかなって思うんだけど、同時にこの4人は、その中でもとても”rare”な子たちだったんだという風に描かれている気がする。映画の中で描かれる他の大学生を見ていると、「何かが違う」「こんなのガッカリだ」と思ったこの子たちの方がまだまともな気がしてくる。

この子たちは、7年間刑務所に入ったそうだ。7年間!20歳で犯罪を犯したとして、一番アホなことやり放題な20代のほとんどを刑務所で過ごしたのだ。でもね、現在の彼らを見ると、この犯罪を犯しても犯さなくても、この子たちはこうなっていたんじゃないかと思う。刑務所の中で今後の身の振り方を考えたかも知んないけど、刑務所に入らなくたってある程度のトシになれば身の振り方を考えなくちゃならない時は必ず来る。あの頃こういう自分になるとは思ってなかっただろうけど、でも今ある自分に運命的なものを感じているのではないかと。

PS
サントラもめちゃめちゃいいです。
GreenT

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