SPNminaco

ミスター・ロジャースのご近所さんになろうのSPNminacoのレビュー・感想・評価

-
強い信仰を持つ聖職者であり、共和党支持者。そして、教育TVで子供番組のホストを務める優しい笑顔のおじさん。それが30年以上にわたって子供たちの良き隣人であり続けたミスター・ロジャースこと、フレッド・ロジャースさんだ。番組では戦争や暗殺や人種差別といった当時の生々しい現実も誤魔化さずに触れ、子供の立場に立って愛と優しさを広める。彼の言葉によれば「人生の変調を助ける」役目。常にゆったり穏やかな声、オープンで品のある物腰は生涯変わらない。
そんなロジャースさんは信念を曲げない頑固な人でもある。確かに「キリストみたい」な聖人すぎて、もともと育ちの良い白人男性だから…とか、この番組を観る子供の層はどのくらいいるんだろう?とも感じてしまう。実際、時に訝しまれたり茶化されたりもしてきた。だが「そのままで愛される」のだと歌いかけるのは、彼自身が弱々しい変わり者の子供だったからだ。彼は身を持って知るこの危険で残酷で善意より悪意が蔓延る世界への(そして力及ばぬ自分への)怒りを抱えつつ、決して表には出さない。代わりに愛と優しさの理想で立ち向かう彼はドン・キホーテみたいな奇人なのか、それともやっぱり聖人なのか。
このドキュメンタリーはその答えを我々に問う。今こそ愛と優しさと善意を持ち、良き隣人になれるのか?あなたならどうする?と突き付ける。だからこそ少し苦い。善意を貫くのが難しく思える今はロジャースさんの方がラディカルな存在だから。その意味で確かに「キリストみたい」だと頷ける。あの優しい笑顔はガチなのだ。
トム・ハンクスがロジャースさんを演じ、これにも少し登場したジャーナリストとの交流を主軸にしてるという映画も楽しみ。
SPNminaco

SPNminaco