サマセット7

猫の恩返しのサマセット7のレビュー・感想・評価

猫の恩返し(2002年製作の映画)
3.6
監督はテレビアニメ「ぼくらに」の監督や「AKIRA」「魔女の宅急便」などのアニメーター、森田宏幸。
主人公ハルの声優を、「ジョゼと虎と魚たち」「そこのみにて光輝く」の池脇千鶴。
原作は、柊あおいの漫画「バロン猫の男爵」。

[あらすじ]
女子高校生吉岡ハル(池脇千鶴)は、ある日の放課後、帰宅途中で、車に轢かれそうになった黒猫を間一髪で助ける。
黒猫は、二本足でお辞儀をして、ヒトの言葉で恩を返すことを約束して立ち去る。
その夜、ハルの元に、猫たちの行列が現れる。
行列の主は猫王だった。猫たちは、昼間助けた黒猫ムーンは猫王の王子であり、王子の命の恩人ハルに、猫の国総力を上げて恩返しをすると言うのだが…。

[情報]
スタジオジブリ制作の12番目の長編アニメーション作品。
1995年公開の「耳をすませば」のスピンオフ作品である。

スタジオジブリ作品としては、宮崎駿と高畑勲の2人以外の人物が初めて脚本を書いた作品となる。
脚本は、「ヴァイオオレットエヴァーガーデン」など数々のアニメ脚本で知られる吉田玲子。

監督も、宮崎駿、高畑勲ではなく、アニメーターの森田宏幸。
2巨頭以外の監督作は、「耳をすませば」の近藤喜文以来二作品目。

「耳をすませば」は、柊あおいの同名少女漫画を原作としていた。
「猫の恩返し」は、もともと宮崎駿が柊あおいにリクエストして書かれた、「耳をすませば」のスピンオフ漫画「バロン猫の男爵」を原作とする。

「耳をすませば」の劇中で、小説を書くことを志した中学生の主人公月島雫が書いた小説が、今作「猫の恩返し」という位置づけになる。
そのため、「耳をすませば」に出てきた猫の人形「バロン」が今作ではヒーローとして登場するし、「ムタ」も重要なサブキャラクターとして登場する。

今作は、ジブリ長編21作品中8位の64億円長の興収を出しており、これは2002年の邦画トップの成績。
批評家、一般層ともに一定の好評を受けているが、ジブリ作品としては、宮崎駿、高畑勲作品ほど絶賛一辺倒ではない、という感じか。

[見どころ
猫!ネコ!CAT!!
大量の猫を浴びて、癒される!!
王道ファンタジーで、主人公の性格ものほほんとしているため、安心して観られる。
アニメーションのクオリティは、さすがジブリ!

[感想]
癒された。

ストーリーには特段のひねりもないのだが、そんなモノを今作に求めるのが間違っている。
今作は、猫の国と、猫の事務所、という異界の、ネコネコしたあれやこれやを楽しむアニメである。

大量の印象的な猫シーンが観られる。
猫の行列!!
猫の事務所への通り道!
猫の事務所!!
猫が猫を追う追跡劇!!
猫の城での歓迎会!!!

猫を可愛く描く点に、ジブリアニメの職人芸が注力されている。
二本足でちょこんと歩く姿が、ユーモラスでよい。

今作を語るに、バロンとムタは外せまい。
バロンは、ジブリヒーローとしては、最もストレートなヒーローかもしれない。
スペシャルブレンド!
舞踏!!
剣戟!!!
そして、ラストシーン!!!!
エレガント!!
猫顔だが、惚れる!!!

ムタは、コメディリリーフに収まらない大活躍を見せる。
強面だが、実はいい猫、というキャラクターもとてもよい。

大感動とか、目を覆う悲劇などはなく、75分の短さもあり、さくっと観られた。

[テーマ考]
今作は、猫の事務所と猫の国の冒険を通じて、主人公の少女の成長を描いた作品である。
作品冒頭とラスト付近の主人公の髪型、言動、憧れていた相手への態度に、主人公の成長が表現されている。

ストーリーを追うと、基本的にハルは状況に流されているだけのように見えるのだが、最終盤に、自分の意志をはっきり相手に伝える場面があり、象徴的だ。

ハルの成長を促したのは何か。
作中、バロンはハルに、繰り返し、大事なことは何か、を伝える。
そして、バロンも、ムタも、自分の意志を明確に持って状況を変えていく。
その姿が、ハルに影響を及ぼした、と捉えるのが素直だろうか。

今作のタイトル「猫の恩返し」はダブルミーニングだが、少なくとも冒頭の王子ムーンを助ける行為は、ハルにとってトラブルを巻き起こしただけのようにしか見えない。
ハル自身も後悔するようなことを口にする。
しかし、ハルの善意からの行動は、最終的には自らの成長を引き出す結果になる。
何事も、善意からの行動は、やがて自分に善い影響として返ってくる、といった、ポジティブなメッセージを読み取ることができる。

[まとめ]
ジブリ作品の中の異色作にして、猫に浸って癒される、ネコ・ファンタジーの小品。
なお、ジブリ作品に出てくる動物の中では、「となりのトトロ」のネコバスが好きだ。
あのもっふりした座椅子がよい。