MasaichiYaguchi

セカイイチオイシイ水 マロンパティの涙のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.3
実話を元に或る女子大生のフィリピンでのボランティア活動を描く本作を通し、このヒロイン・明日香と同様に我々も、フィリピンのこと、その抱える問題、そして戦後何十年経ても現地に残る戦争の遺恨、これらを日本人として謝罪や償いではなく、同じアジア人として感謝の気持ちで乗り越え、絆を深めようと頑張る人々がいることを知る。
インターネット、SNS が一般化して世界のことを居ながらにして瞬時に分かったような気になっているが、実際は“井の中の蛙”になっているのではないかと思う。
フィリピンの離島パナイ島パンダンでの、日本とフィリピンのボランティアによる水道建設における困難や苦難は、ツーリストという立場では分からないし、気付かない。
本作の明日香のように短期間でも現地の人と同じ目線や立場にならなければ見えないし、感じられないと思う。
近年、日韓で戦争の遺恨を巡って加速度的に溝が深まり、政治や経済、国民感情において修復出来ない事態に向かっているような気がする。
本作にも反日感情を剥き出しにした人物が何人か登場するが、それに負けずにパンダンの人々、特に幼い子供たちに綺麗な水を飲ませようと黙々と努力する岩田のような人もいる。
明日香は軽い気持ちで海外ボランティアに参加したと思うが、現地の人々と交流する中で彼らが抱える深刻な問題に直面し、それを何とかしようと奮闘する岩田たちの姿を見ているうちに人として変わっていく。
タイトルにある「マロンパティ」とは雌のワニの名前で、彼女を巡って争った雄のワニ2頭が共に亡くなり、それを悲しんで止めどなく涙を流し、やがて湧水になったという伝説がある。
パンダンは海岸に面した町で、井戸を掘っても塩水や汚水が交じってしまい、高血圧や心臓病を引き起こし、体力のない幼児や老人が数多く命を落としている。
だから、パンダン水道建設プロジェクトとは飲料として適している「マロンパティの涙」から町まで10キロの水道管を埋設する工事で、映画でも描かれたが、重機を使わず人力で行われている。
この作品を観ると、どのような困難や障害、深い溝があっても、地道で持続的な努力や相互理解をすれば、人は共に乗り越えていけるのだと思わせてくれます。