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アイカのmikoのレビュー・感想・評価

アイカ(2018年製作の映画)
4.0
ただただモスクワでのキルギス移民の生活が描かれる。淡々と。

子供を置いて股から出血しながら逃げるアイカ。
なぜそこまでして生きる?
出血し、搾乳しないといけないアイカ。子共がいないから自分で絞るアイカ。
出血し、搾乳しないといけない犬。子犬がいて、乳を吸われて、病院で手術を受ける犬。
地下の工場で生きたまま茹でられ、毟られ、血だらけの槽でタワシで洗われ、出荷される鶏。
働き口を求めて雪のモスクワを彷徨うアイカ。

ただただ厳しい。救いがない。大抵の映画ってさ、生活が苦しい主人公でも、なんらかの救いがあるじゃん。それが趣味でも、物でも、月を見るとかでも。そういう、ここだけは見てる側も安心して、あ、ここはこの人の安全地帯なんだって思えるところがあるじゃん。
アイカにはなかった。歩きにくい雪のモスクワ、人がぎゅうぎゅうのモスクワメトロ、どこへ行っても無い働き口、寝る場所ですら静寂もない。心が休まるところのない映画だった。見てる側としても疲労感がある。緊迫感ではない、アクション映画とかスパイ映画の息つく間もない興奮と緊張とかじゃない。なんとなくずっとそわそわして、安心できない。その感覚がアイカの生活なんだろうな。どこにも居場所がない。帰るところもたぶんない。
親切にしてくれる人がいないわけじゃない。でもでもその人たちはアイカを気にかけてるわけじゃない。
そのエネルギーは一体どこから来るのか。借金まみれで職も友人も家族もないなんて、「命が惜しくないのか」なんて。でもアイカは自分の人生を掴もうとしてた。

でもそこまでしなきゃいけない?と思ってしまった。故郷もなく、家もなく、金も職も、得かけた家族も捨て、日常に救いも安らぎもなく、それでも自分だけの未来に向かって?誰にも寄りかかることなく人は生きていけるのか?今の幸せを蔑ろにしてあるかもしれない未来のために生きるって、私にはできない。

モスクワ、無関心な街。東京も同じだろ。でもその無関心さが悪なわけじゃなくて、というかアイカは何に対しても憎んでないな?
なんか、すごいな。特定の誰に対しても憎悪を向けず、誰にも頼らず、安心できるものも場所もなく、人ってそんな状況で生きられるものだろうか。
目の輝きと意志の強そうで何かに耐えてるような口元。
最後の涙、誰も頼れないアイカに身を委ねる赤ん坊に対して?それを捨てようとする自分に対して?

ユーロスペースを出た後、渋谷の街。アイカほどではないにしろ、生きるために、今を生きる人がいるんだよなと思った。
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