Shin

読まれなかった小説のShinのレビュー・感想・評価

読まれなかった小説(2018年製作の映画)
4.6
何と言ってもトルコの片田舎をとらえた映像の美しさに目を奪われました。主人公シナンの同級生であるハティジュが劇中で語る"何気ない日常にある美しさ"を目の前で披露してくれるかのように。
そして登場人物の回りを飛ぶ虫さえも計算されたかのような見せ方です。
あるシーンでは主人公の実家の半開きのドアのカットだけで、緊張感を高め事件を匂わせる。また別のシーンでは、ロープ一本だけで死を暗示させ、時には生を思い起こさせる。映像のマジックに引き付けられました。

また脇を固める登場人物がとても魅力的でした。結婚を控えあやうさを漂わす花嫁ハティジュ、笑い方に特長があり競馬好きで無駄に井戸を掘り続けるどこか憎めない父、そんな夫を一途に愛するたくましい母、まさに地元の人にしか見えない祖父母。

主人公シナンは作家志望にもかかわらず、人間嫌い。様々な人たちと交わす対話がしつこいくらい濃密で文学的です。
しかし、それ程魅力的には描かれておらず、横柄な態度が相手を遠ざけてしまい、父のように誰からも相手にされなくなってしまいます。

野生の梨の木という言葉が象徴的に使われ、やがて導かれるように父子の関係も・・

劇中で使われた「現実はひとつではない」
というセリフを描写するラストにはうならされました。
Shin

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