MasaichiYaguchi

ピア まちをつなぐもののMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ピア まちをつなぐもの(2019年製作の映画)
3.5
超高齢者の両親を抱える私にとって本作で描かれた内容は決して他人事ではない。
言葉自体は知っていたが、題材として取り上げられた「在宅医療」とは如何なるものなのかを本作を通して初めて知った。
厚生労働省は、医療法上の病院病床から介護医療院への転換を進めていて、地域ぐるみの医療、つまり「在宅医療」への取り組みの重要性が益々高まっている。
特に終末期医療(ターミナルケア)において、自宅で家族に見守られて逝きたいと願う人は多いと思う。
本作の主人公・高橋雅人は町医者の父が病気で倒れた為、やむ無く大学病院を辞めて戻ってきたのだが、エリートコースから脱落して町医者になることに忸怩たる思いを抱えている。
そんな中、父が行っていた訪問診療を引き継ぎ、様々な患者に接していくことで彼の内部にあった蟠りや変な自尊心に変化が起きていく。
雅人が訪問診療する患者の大半は寝たきりの人が多いのだが、乳癌から退院したばかりの藤本由起子の訪問診療を通してその一家と知り合ったことを契機に、今まで抱いていた医療に対する考えが根本から揺さぶられていく。
本作を通して我々は雅人と共に、終末期医療を含めて医療とは何か、更に生きるということはどういうことなのかを見詰めていく。
病院のベッドに寝たきり(植物状態)で命を長らえているのを生きていると言えるのかということを、本作は暗に問題提起しているような気がする。
このドラマを観ていると、貝原益軒の「養生訓」の有名な一節、「医は仁術なり。仁愛の心を本とし、人を救ふを以って志とすべし」を思い出す。
「医術とは単に人の体の治療するだけではない、そこに人徳を施す術である」ということを、本作は描いていると思う。