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⼗年 Ten Years Japanのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

⼗年 Ten Years Japan(2018年製作の映画)
4.5
現在・2018年から10年後。1本18分前後の短編が5本のオムニバス。それぞれの短編が、懸案の社会問題の「10年先」を題材に描かれている。それは、高齢化・道徳教育・デジタル遺産・環境・安全保障。いずれもが、上からそれらに取り組むエリートやヒーローなどでなく、その問題に囲まれて暮らす市井の人々の視点から描かれている。

5つの問題は、この映画の中で「10年後に何らかの対応がなされている」。そんな対応が現実になれば、メディアは警鐘しデモが頻発する大騒ぎになるだろう。そんなことがあったのかなかったのか、映画の中の日本は、それを受け入れた上で、問題から遠い人は平穏に日々を暮らしているように見える。

その「平穏さ」が不気味でさえある。そこにこの映画の核がある。大予算で、変革を迎える社会とそこに生きる人々の闘い、国会を囲むデモ、飛び交うヘリ、なんて映画で描いても、まだまだリアルな感じはしないのが現代だ。けれどこの映画の中で生きる大人たち子供たちの表情、それらは実にリアルだ。暴動も起こさず、ほんの少しだけ日常から踏み出そうとするおずおずとした足取り。自由を求めて飛び出そうと足掻くのも人間なら、自らの軛で自らを縛るのもまた人間。葛藤こそが人間なのだ。

観る側の感想を取れば、この映画を真ん中にして、この映画が訴えることに賛意も否定も不明も生まれるだろう。ただ、イイのダメの言うだけでなく、自分ならどう描くか、その問題に直面するならどう生きるのか、少しの間でもグッと腹の底で考えてみよう、そう思わせる静かな迫力がある。

映画の奥に、人間をコントロールしようとする「社会」「国家」を刺す視線がある。一方で、そこに属し、自分と同じく他の人たちの平穏で豊かな生活を守るために努める人たちもいるはずだ。「こんな社会になった後」でなく「こんな社会にするために今」頑張る人たちの姿も、観てみたいし描いてみたい。相手によっては、観た後で世が明けるまで様々に語れそうな、静かだけど熱い映画だ。
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