KUBO

沖縄スパイ戦史のKUBOのレビュー・感想・評価

沖縄スパイ戦史(2018年製作の映画)
3.8
6月2本目の試写会は、三上智恵監督最新作「沖縄スパイ戦史」。

様々な角度から語られてきた沖縄戦だが「スパイ」と聞いて「?」と思われた方もいると思う。かくいう私もその口なのだが…

1944年、沖縄の各地方に陸軍中野学校出身のエリート将校が送り込まれた。彼らは各地で10代の若者たちを徴兵し「護郷隊」を組織する。

その戦い方は、兵隊らしい格好をせず、地域に溶け込み、ゲリラ戦を行うこと。今なら中高生に当たる子供たちに銃剣や手榴弾を持たせ戦場に送り込んだ。

戦場での様子は最近作の「ハクソー・リッジ」でもその激しさが描かれていたが、本作はドキュメンタリーであるから、その記録フィルムによる映像はホンモノだ。脳みそが露出した頭部、半身がちぎれた上半身だけの死体。正視できない残酷さだ。

それでも子供たちは「赤紙」が来たと言って「アメリカを殺してこい」と激励されて家を出る。

今のイスラム系テロ集団の少年兵と同じじゃないか! 「敵が憎い」という気持ち、国が、集団が作る、殺人を肯定する集団心理。戦争はこんな十代の心も蝕んでゆく。

そして生き残った者たちの心にも、一生癒えない傷を残していくのだ。

また、今回、共同監督の大矢英代さんが主に撮られたパートでは、西表島でのマラリアによる大量死が描かれている。

数年前に西表島に行った時に、マラリアの話はサラッと聞いていたのだが、その裏にここにも「陸軍中野学校」出身の「偽名の将校」の存在が絡んでいたとは! 軍の国民無視の政策がなければ、波照間島住民500人が命を落とすことはなかったのだ。

上映終了後、この波照間、西表島パートを撮られた大矢監督とご挨拶したが、監督さんとは思えない(?)、美カーギー! かわいかった〜。

まだまだ我々の知らない真実はたくさんある。映画は多くのことを私たちに教えてくれる。そして、そこから私たちは考え始める。良いドキュメンタリーは我々に「考える」ことを要求する。

作品は「今」の先島諸島に目を向けて終わる。さて、私もこれからの日本を考えよう。
KUBO

KUBO