蛇々舞

アラジンの蛇々舞のレビュー・感想・評価

アラジン(2019年製作の映画)
4.0
字幕で鑑賞。
ようやく観られた。

ちゃんと時代の変化を意識しているというか、「はじめて“アラジン”に触れる人々」を念頭に置いた映画だった。
世代交代というか。
かつてアニメのアラジンに魅せられた子供たちが大人になり、彼らと、その次の世代が映画を観に来るだろう、というターゲット設定。
冒頭の、子供らに語り聞かせる“彼”のシーンは、そんな構造を表しているのかな、とも思ったり。
「人気作だから当然、知ってるよね?」っていうスタンスじゃないのはプラスポイントですよ。

長回し風のオープニングから、世界観にググーッと引き込まれる。

最初にジャスミンの正体が判らない状態でスタートするあたりは、原作アニメを知る人には「こうきたか!」と思わせ、彼女が誰か知らない人たちには「おお!」と思わせる展開だったのかなと。

内容は昨今のポリコレに配慮……というよりは、現代の価値観に向けてアップデートしてある。

ジャスミンは、ガチガチの監視環境にブーたれるだけの娘ではなく、王位につくため勉強し、国民を想う、歴とした王位継承者に。
(町に出る展開が、逃げ出したのではなく、民の生活を知るため、ということにしたのは良改変)

アラジンは王子に変身するものの、皆に呆れられるヘッポコぶり。

そりゃ、下層民のアラジンが急に王子様として振る舞えるだけの教養を持ってるわけないし、ジャスミンにしたって、王子様が幸せをもたらしてくれる前提の人物造形だったもんなぁ。

ジャスミンの侍女・ダリアを登場させたのもグッド。
リーダーシップを取る女性の代表としてジャスミンを描いた一方、結婚して子供を設ける、という幸せの在り方をダリアに振ることで、どちらの人生も尊重しているのが素晴らしい。
ジャスミンの人間関係も豊かになって、生活感が出たのも良かった。

なにより原作アニメにおいて、ラストの対決でジャスミンが色仕掛けに走る展開は子供心に大嫌いだったのだけど、これが解消されていたのは非常に嬉しかったです。

キャストも、それぞれ役に合っていた。

特にジャスミンを演じたナオミ・スコットは、若き日のキャサリン・ゼタ=ジョーンズを彷彿とさせる美しさ。
歌声も力強く、敵に立ち向かい、王子様を捕まえに行くヒロイン像にピッタリであった。

映像も音楽も豪華で、非常に楽しませてもらいました。



以下、ネタバレあり、気になりポイント











ジャファーの造形が、薄っぺらくなっちゃいましたね……。
一緒にイアーゴも、ただのカタコト喋り鳥さんに。

悪い奴だけど憎めなくて、なんやかんやイアーゴと仲が良いジャファー像、好きだったので、ただの女性差別おじさんになっちゃったのはショックだった。

まぁ、新キャラのダリアとか近衛長?のハキームとか、そこら辺がボリュームアップしたので、バランスを取るために削ぎ落としたのかもしれない。

まぁ、不満ってほどでもない。
あのジャファーとイアーゴに会いたけりゃアニメ観りゃいいしね。

ところでジャスミンの新曲「スピーチレス」がカッコよくて素晴らしすぎて鬼リピートしている。

とはいえ、それ歌ってやることがハキームへの説得というのは、「うぅーん」と思わないでもなかった。
ハキームが心変わりするまで1曲はさむだけ、って、どうよ。

そもそもだけど、ハキームがジャファーを王様と認識してた理由もイマイチ解らん。
本人いわく「法に仕える者だから」とのことだけれども、ジャファーは別に法律に則って王様になったわけじゃなくない?
じゃあ別に従う動機がなくね?

ジーニーの魔法に催眠効果でもあって現実が歪められ「手順を踏んで王に即位した」と錯覚してたのだろうか?
でも、それを説明する場面は無いんですよね。
アラジンがアリ王子に変身したときも、最初から思い切り疑われてたし。
それでも押し通せたのはパレードして富を贈って、大勢の配下を従えて財産もある=やんごとなき人に違いない、って思わせたからっぽい。
なのに「王様にして、ってジーニーに頼んだから法律上も王様になったんですよ」ってイキナリ言われてもなぁ。
じゃあ地図に書き足されたからって、実際にアバブワって王国が誕生したんですか、って感じじゃん。

だから、てっきりハキームさんは「従ったフリをして反撃の機をうかがってる」ものだと思ったのに、ジャスミンの呼び掛けにアッサリ応えちまって感動して泣きながらも「!?」って思いはあった。

個人的には、あのシーンはアイコンタクトとかで「内心は裏切ってない」ことを確認するだけにしといても良かったと思う。
後でアラジン突撃の混乱に乗じて、ハキームがジャスミンを解放し、ジャスミン率いる兵士らが内側から攻撃するとか。

まぁ、そんなのは、観てる間は普通に流せたし、時間が経ってから「でもアレって……?」と思った程度。
映画のメリハリが良かったってことだろう。
テーマを語る上で、欠点ではない。

ただ1つだけ、どうしても観てる間に不思議だったのは、アリ王子が王宮に挨拶しに来た下り。

アガっちゃったアラジンは失言しまくって一同に呆れられ、ついにはジーニーにまで「10000年間で一番恥ずかしかった」と言われる。

で、積み上げた財宝を前に、ジャスミンは「これで私を買えると思う?」と詰問する。

いやまぁ、これが「女と言えば宝石と甘いものでしょ」という偏見への批判だっていうのは充分に伝わるんですが……

それ用意したのジーニーやんけ。

そもそも贈り物は、王国から王国への礼儀とか、通商を期待しての挨拶とかで用いられるんでしょ。
なんで一足飛びに「それで王女を買おうというつもりか」って話題になるんだよ。
なんかフェミニズム的な展開にするための、こじつけくさい問答に思えてしまった。

それに用意したのはジーニー発言に戻るけど、なんで、長い間ランプに籠ってた魔神の方が女性の怒りに敏感やねん。
古い価値観のジーニーの方が「てっきり喜ぶかと」とか言った方が自然に思える。

想像にすぎないが、ウィル・スミスは「スーサイド・スクワッド」で脚本に意見して自分の台詞を増やさせたりしていたらしいので、「アラジン」でも「みっともない台詞を言いたくない」とか言ったんじゃなかろうか。

そうでもなければ、あのシーンだけ「アラジンの男性的価値観を揶揄」する目的があるにしてはアラジン本人に悪気が無く、本心からの言葉でもないっぽくて、焦点がボケてるんですよね。
そもそも直前に「心は通じあってる。でも身分だけが……」とか言ってたわけだし、わざわざジャスミンに宝物を積み上げる意義が、アラジンには無いわけじゃないですか。
やっぱ、あのシーンだけ成立してない気がするな?

それがウィル・スミスというスターに配慮して無名のメナ・マスードが割りを食ったのだとしたら、残念だな、などと邪推してみたり……。
俺の意地悪な邪推に過ぎなかったらいいな、本当に……。


まぁ結論としては、とても良い映画でした。
ウィル・スミスのジーニーも良かった!
日本語吹き替えでリピートしたいと思いました!
以上です!!
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