ずどこんちょ

七つの会議のずどこんちょのレビュー・感想・評価

七つの会議(2018年製作の映画)
3.6
会社は社員たちの汗水流して働いてきた時間と労力によって大きくなる。しかし、たった一つの秘密で運命は変わる……

「半沢直樹」や「下町ロケット」などの池井戸作品をドラマ化してきた福澤克雄監督による、新たな池井戸作品の実写化。今回は連ドラではなくて映画です。
日曜9時の池井戸劇場が好きだった方々にはたまらないのではないでしょうか。
悪代官顔のお偉いさん方に散々歯痒い思いをさせられた上に、最後の最後で痛快な大逆転。現代社会の勧善懲悪で本当にスッキリします。

舞台は中堅電機メーカーの東京建電。
冒頭から営業部の地獄の会議が始まります。営業成績の悪い課は全員立たされ、怒鳴られ、罵倒され。やっと解放されたと思ったら次の課の報告時も立ち続けるよう命じられる辱め。いやぁ……これは精神的に参る。
しかも複雑なのは、社員を叱責している営業部長本人もしきりに後ろの視線を気にしています。そこにいるのは東京建電の親会社であるぜノックスの常務取締役。東京建電の礎を築いた実績があり、営業部長・北川と主人公・八角の元上司です。なんとわざわざ会議の様子を後ろから監視し、会議後には営業部長に「ぬるいな」と叱責するのです。
後から分かったことですが、この会議そのものに、この会社の体質があったのですね。強権的でノルマには絶対服従。ノルマ達成のためなら、どんな不正な手も使う…。会社や組織って、こうやって圧力をかけた部分から歪みが生まれて誰かが隠蔽し始めるんだよなぁ…と、これまで散々歴史から学んできたはずなのに組織は同じ事を繰り返してしまうようです。

物語はまずは営業二課で叱責されていた原島課長ともうすぐ会社を辞める浜本さんの視点から始まります。
あれだけ地獄の会議中に堂々と居眠りをするお荷物社員の八角。それなのに北川部長は何も言わないし、八角を叱責した上司の坂戸課長はあっさりとパワハラで飛ばされました。
原島課長と浜本さんは疑惑を抱きます。かつては営業成績もトップを走っていた八角も、今では業務中にダラけている怠慢社員。それなのに会社はエリート課長よりも怠慢社員を守ったのです。
やがて八角が取引を再開したネジ工場との癒着疑惑に、浜本さんが退社前に始めたドーナツ販売の無銭飲食問題など小さな問題が浮き上がります。
その糸を辿っていった原島課長と浜本さんは、ついに会社のみならず世間全体を揺るがす大きな問題にぶち当たるのです。
どんなに必死に隠しても、やはり大問題の末端には取るに足らない小さな問題が浮かんでいるわけで。こういう小さな問題を見逃さないようにしないと問題の核には辿り着けないものなのですね。

八角の思惑が分かった中盤からは八角の視点です。
彼は一体どんな秘密を握っていたのか、そして何を目指して動いていたのか。その背景が明らかになります。
八角は正義を貫く世直し社員で、それこそ出世を気にしていないから上層部から見ても最も恐ろしい男です。正義のためならどんな手を打つか分からない。八角の存在そのものが上層部の思惑と反して異端ですから、こういう人が会社のストッパーでありながら、同時に上にも下にも憎しみを買いやすいんだろうなぁ。
例え憎しみを買ってでも、かつての轍を踏みたくないと今回は逃げなかった八角の目は実に鋭かったです。野村萬斎の敵を射る目力でした。

「会社」と「社会」は文字をひっくり返しただけの、いわば表裏一体の関係です。
会社を支える上層部の人々は保身や私利私欲に飲まれず、自分たちの判断や指示が組織の枠を超え、社会に与える影響まで十分に自覚してほしいものです。