スローモーション男

愛すれど心さびしくのスローモーション男のレビュー・感想・評価

愛すれど心さびしく(1968年製作の映画)
5.0
 カーソン・マッカラーズの原作小説『心は孤独な狩人』を映画化したもの。

町山智浩さんの映画特電で知って、YouTubeですが本編があったので観ました。
https://youtu.be/KdFQo328iA8?si=flhBruJw-1CvB5IG

アラン・アーキンとソンドラ・ロックの演技が素晴らしい。

1968年の南部にシンガーという聾唖の青年がやってくる。知的障がいを持つ聾唖の親友が精神病院に入るので、その近くに住むのだ。彼は心優しく、たくさんの町の人々に寄り添っていくのだが、それでも人々は分かり合えないのである。

あぁ、なんて辛いんだ…。
人はこんなにもコミュニケーションが絶望的にできてないんだ。結局、人は自分優先で他人の話なんて聞いてくれない、聞いているふりをする。分かってないんだ。心で繋がってないんだ。それを実感する。

宿屋の娘ミックや黒人の医師、その娘、戦争から還ってきた飲んだくれの親父、みんな孤独で辛いんだ。人種や障がい者に対しての差別や偏見も酷い。今、やたら多様性、多様性と騒ぐが基本的に人間なんて分かり合えないんだよ…。
多様性とか糞食らえ。

シンガーは見返りは求めず行動する。そんな健気な姿が自分と重なって涙がこぼれました。なんでそんな自分のこと大事なの?人に優しくしようと思えないの?

とうとう聾唖の親友も死んでしまう…。シンガーは、彼に対してひどく当たってしまい、そのことに後悔し絶望する。そして周りの人たちがまったく変わろうとしてくれないことに。こんな世界嫌になるよね…。
彼は自殺を選択する。

最後のシーンはシンガーの墓にニックが花束を持ってくる。そこに医師のコープランドが。
ニックが言う「彼はいつも私の気持ちを考えてくれたけど、私は彼のことを考えようともしなかった」
泣きながら愛していると言うニック。でももう遅いんだ。

この映画から何十年たった今も私たちは孤独で苦しんでいる。
原作の『心は孤独な狩人』を書いたカーソン・マッカラーズも同じことを思ってた。
バイセクシャルで、同じバイセクシャルの旦那を持ったが、彼は自殺してしまう。誰からも分かり合えないと思ったんだ。

『正欲』でも分かり合えない人たちを描いてた。もう人はこんなにも分かり合えないんだと絶望するよ。
自分はこんなに人に尽くして好きになろうとしてきたつもりなのに、誰からも必要とされない、愛されない、話も聞いてくれない。無価値なのだと思うよね。