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パス・オーバーのkissenger800のレビュー・感想・評価

パス・オーバー(2018年製作の映画)
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聖書の文脈で「過ぎ越しの祭」を知っていないとまるで理解できないやつ。視聴後どこかの映画サイトが「黒人のホームレスふたりが不条理な会話をしながら」と紹介しているのを読んで、絶句しました。

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とだけ書いて放置していたのはfilmarks登録間もなく書いたレビューだからで、今ならもうちょっと文字数多く書くよねえ。
……しかしどこから説明すれば?

・みんなもうっすらとだけは知ってるはずの「モーゼが海を割って」云々エピソード、あれも過越祭の一部
・そもそもモーゼが何で海を割る必要があったのか。ものすごくざっくりいうと奴隷とされていたエジプトの王から逃げるところだったから
・逃げるって正確さに欠く表現だしモーゼは奴隷じゃないんですけど、細かいことはいいや
・要は約束の地へたどりつくための第一歩、を踏み出す前のシチュエーション。ぐらいのニュアンスがpassoverという一語に含まれている

・戯曲の作者が「ゴドーを待ちながら」の名前をわざわざ挙げているから連想するのはいいんですけどね、反射的に不条理劇って口から出ちゃうじゃないですか。それで何か言った気になるの、とても危険だと思うのよ
・だって本作の台詞で「不条理な」ものある?
・それこそ「黒人のホームレスふたりが不条理な会話をしながら」レベルの解像度しか持っていないマンが言い訳にベケットの名前を出すんじゃないか
・いや、俺は分かってるけどマウンティングじゃなくて。自分も含めて「不条理」ってNGワードにしないと内容を理解しないままなんでも不条理放置プレイ上等、ってなるじゃないですか人間だもの(=主語デカ)

・出エジプトという聖書文脈については最初に触れた通りですけど、奴隷制が公的に認められていた17世紀から19世紀に多くのアフリカンアメリカンが抱いたであろう「ここから逃げよう」という切実な思い、ちょっとでも油断すれば肌の色によって命の価値がものすごく軽くなる21世紀の今日。時代として3つのレイヤーが描かれているのは、分かりやすいよねえ
・つまり思考停止の必要なんてこれっぽっちもない作品だと思うのです
・なお作者にこれを書かせる直接的な原動力になったのはトレイボン・マーティンだったそうで、そう、『アメリカン・ユートピア』(2020)におけるハイライト曲のひとつ"Hell You Talmbout"でも歌われている彼な

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案の定、何が言いたいかまとまらないね!
というのはまるで嘘で、俺が言いたいのは、これ「ゴドーを待ちながら」じゃないだろ。です。
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