Ryoma

魂のゆくえのRyomaのレビュー・感想・評価

魂のゆくえ(2017年製作の映画)
4.2
サスペンスやスリラーならではの不穏な効果音等の劇伴をほぼ排した淡々と進む構成故に、少し疑問が残るラストが妙に腑に落ちず珍しく作品を振り返りしっかり考察した。
牧師という難しい立場、敬虔なキリスト教論者であり道徳的にも法的にも中立的立場であるが故に、言葉を選びに選んで教示する様、社会に潜む悪意と対峙する様はイーサンホーク演じるトラーの抱える苦悩、沸々と湧き上がる怒りなどの葛藤が痛いほど伝わってくる。どれだけ責任が伴う立ち位置なのか、ひとつの軽率な言動により批判の的になりうる立場なのか痛感した。裁判官もこんな感じなのかなと思ったりした。様々な矛盾や理不尽、不条理さなどの複雑な事情が絡み合って成り立っている社会であるが故に悪事を悪事と一蹴できないもどかしさを痛切に感じた。そのやるせなさに耐えきれず自ら命を絶つ者もいれば、我慢しきれず法律で裁けまいと自分のやり方で行動に移す者もいて、そういう人が生まれること自体が現代社会の実態であり、暗黙の了解にして目を瞑っている問題なのだと。そして、その後者はしばしばテロと呼ばれることが多く無論大罪であるけれども、その根幹である原因の抜本的特定に踏み切らない限り悪は滅びないのだと強く感じた。
何が善良で何が凶悪か。実際問題、法律で裁けない事案・事件もあり、報われず救われない被害者もいる訳で、その境目は明確でなく不透明になりつつあるんだと感じたし、昨今の映画に多く見られるダークヒーローものの台頭がそういう考えを代弁したり象徴したりしているのではと思った。本作のメッセージのひとつとして、巨大な権力への皮肉や警鐘も大いに感じた。巨大な権力など、よりよい社会にするための障壁となっているものや諸悪の根源、例えば国民を守るための法律が役目を果たしていなかったり、日本で考えた時に北欧では相次ぐ女性首相や閣僚の誕生(フィンランド🇫🇮では34歳で首相に、デンマーク🇩🇰では41歳で、スウェーデン🇸🇪では学校教育相の閣僚がスウェーデン初のトランスジェンダーの方であったり、ノルウェー🇳🇴も2003年から2021年まで女性の首相であった)と比較した、日本の女性登用率が低かったり…政府などの権力が逆に国民を苦しめたりあらゆる可能性を狭めてしまっているんだと感じた。穏やかに暮らしたいだけなのに…
難解であろう役柄のイーサンホークの演技がとてもよかった。コミカルな役から本作のようなシリアスな役までどんな役もハイクオリティでこなせる彼の偉大さに感服するばかり。6/16公開予定、ポール・シュライダー監督作の『カード・カウンター』も気になる。
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