不在

魂のゆくえの不在のレビュー・感想・評価

魂のゆくえ(2017年製作の映画)
4.6
本作はロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』と、ベルイマンの『冬の光』を混ぜたような作品だ。
意識してあえて寄せている箇所も多い。
ポール・シュレイダーはこの二つの作品に、タルコフスキーをも引用して、真っ向から勝負を仕掛けた。

神の慈悲なき世界で、人はどう生きればよいのか。
それに対し、前述の作品はどちらも似たような答えを出した。
キリストは磔刑の際、神は何故自分を見捨てたのかと問う。
偉大なる救世主すらも、神の沈黙を嘆いたのだ。
しかし彼はその後、父なる神へ自らの全てを委ね、復活という奇跡を成し遂げた。
つまり神の不在こそが神から与えられた試練、存在の証であって、そんなキリストの体験と主人公達を重ねる事で、ブレッソンやベルイマンは神の存在を映画の中にありありと示し、信者達の救いを描いた。
人は何か辛い目に遭うと、たちまち神を責め始める。
しかしそんな時こそ、祈るべきだと言ったのだ。

シュレイダーは名だたる巨匠達の間に割って入り、人間誰しもが持つ、より根源的な解決法を提唱する。
つまり、愛だ。
宗教も政治も人種も関係のないやり方で、この世界を生き抜こうとするのだ。
自分との対話をやめ、人と向き合う事で、やがて神の存在も感じられるようになる。
魂は他者を介して初めて神へ通じるのだ。

冷戦の頃に比べると、核の脅威はやや遠ざかった。
しかし核がなくとも人々は環境を破壊し、身分や宗教を理由に人を殺す。
この世界は争いをやめない。
そんな時代に本当に必要なものは、見えない神なのだろうか。
それよりも我々は、隣人を愛するべきなのだろう。
不在

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