140字プロレス鶴見辰吾ジラ

魂のゆくえの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

魂のゆくえ(2017年製作の映画)
4.4
【心が叫びたがってるんだ】

イーサン・ホーク主演、監督・脚本は「タクシードライバー」のポール・シュレッダー。そして心惹かれたのはなんと言ってもあらすじ。教会の牧師がある妻の悩みを聞くところから始まり、その夫は身籠もった妻に子どもを堕ろせと言う。その夫は熱心な環境保護者、友はいない。彼の悩みを聞く牧師。信仰は環境保護者という観点で揺さぶられる。その教会もまた環境を蔑ろにした会社からの援助を受けている。牧師は思い悩む。彼は肉体を病みながら信仰を続けていたが、心までも病んでいく。

「タクシードライバー」とほぼ同じような展開なのだが、悩みを晴らすべく相対した男の環境保護者の視点が彼を揺さぶる。その男の行動と目的。それを知った頭を吹き飛ばず死。実は早い段階でトラヴィスが示されている。もしも「タクシードライバー」で別方向からトラヴィスが止められたらという視点と信仰の矛盾が提示されてからが肝となる。主人公の牧師は何より神への信仰優先だった考えが徐々に汚染されたように酒を体に入れるシーンが強調される。彼は信仰の矛盾に気がつき、そして憎悪を持ってあらぬ方向へ歩みを進める。決意が判明するシーンから終着点となるイベントへスリリングに展開された物語は、いつの間にか目の離せぬダークヒーロー映画とも見える方向へと舵を切る。その終焉を望むか否か。この物語に立ち会った我々にも突きつけられる。彼のモノローグが日記調に始まるのだが、その信仰の言葉が徐々に空虚や憎しみ、そして心の沈黙を破ろうとしていくところに恐怖を感じる。淡々とだがもう目を離せなくなる。未亡人と体を重ね宙を舞う精神ダイブの演出が心の旅から汚染地帯へと向かうシーンは最初は薄ら笑いを浮かべていたがいよいよその顔は表情を強張らせる。自身が約束とした場所と時間に彼女が現れなかったら?もはや本当に現れていたのか?如何様に現実か?妄想かも高まる鼓動の中で揺らぎ揺られていく。私は魂の解放を望んだか?その方が牧師の幸せだったか?回転するラストカットに混沌となった鼓動が問いかけてくる。詰まるところ神はいない。あるのは内なる心の声、またの名を超自我なるもの。信仰が汚染水され矛盾を浄化しようと苦悩する主人公の姿にダークヒーローをなれと念じた私も罪を負うモノなのか?

多く日の目を浴びにくい位置の映画だが、信仰矛盾をかつての「タクシードライバー」のトラヴィスがベトナム戦争後に感じた空虚から環境問題に視点を変えて今のアメリカに呼びかける。実は「ジョーカー」になかった真面目な人という視点を与えている映画だ。