くまちゃん

search/サーチのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

search/サーチ(2018年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

失踪した我が子の捜索で暴走する親。
この題材における間口を広げた革新的な作品と言えるだろう。
物語は最初から最後まで特筆するような驚きはない。しかし全編モニター内で展開されるという独創性と演出、ハイレベルなプロットの構築により作品全体が中弛みすることなくスリリングなモチベーションを保持している。

セリフやニュース映像、配信動画等が絶妙に合致し、絡まり合い、ヒップ・ホップにおけるサンプリングの要領で一つの映画という長尺コンテンツを作り上げた手腕はひとえに監督アニーシュ・チャガンティの功績が大きい。

静画と動画の貼り合わせにより、妻パム、娘マーゴットとの関係をテンポよく描き、観客はホームビデオを見ているかのような謎のノスタルジーを付与される。冒頭10分。駆け足であるはずなのにそれを感じない。編集の妙。

さらに序盤から伏線が散りばめられそれが丁寧に回収されていく。
モニター上で進行するため、自然と一場面一場面情報量が多くなる。

時折ヒッチコックやシャマランなどの影響も垣間見える。監視カメラを設置した際、部屋を移動するとカメラの映像もスイッチしワンカットのように連続される場面はヒッチコックの「ロープ」を彷彿とさせ、二転三転するストーリーはシャマラン味がある。

中盤マーゴットはただの家出ではなく、何かの事件に巻き込まれた可能性が浮上する。それを裏付ける証拠が発見されたためだ。
その時、明らかにタイピングの「音」が変わった。
キムの苛つき、憤り、押さえられぬ焦燥
叩き殴るようなタイピング音がキムの感情を全て表している。

マーゴット失踪事件は急展開を見せる。
薬物依存症の元受刑者が殺害を告白し自殺したのだ。

悲しみに暮れるキム。
葬儀屋に家族の写真をデータで送信する。だが違和感に気づく。
犯人は他にいる。
事件の担当捜査官ヴィックは嘘をついている。

マーゴットの追悼式へ駆けつけるデビット。そこへ乗り込む屈強な警察官。
ヴィックは包囲された。逃げ場はない。
静かに立ち上がり、デビットの方へ近づくヴィック。モニターの若干粗めの画質と、次第に大きくなるBGMが観客の緊張感を煽る。次の瞬間何が起きるのか。
心拍数が上がり息を呑む。
そしてこのタイミングで表示される進捗インジケーター。
ネット社会に生きる我々に最もストレスを与える回転する「アレ」である。
その瞬間を見せないだけでなく息を呑んだ観客の息の根をそのまま止めてしまうようなドS演出。

見せるものと見せないもの、その取捨選択が秀逸であり、不安を煽る音楽と間のとり方がアリ・アスターのよう。
現代人の多くが一日のほとんどをデバイスの前で過ごし、時にリアルよりSNSの方が充実してしまう。
現実とネットの虚実。人間の多面性をバラエティ豊かに描いた今作はチャガンティ監督の才能の濃縮還元といえる。
くまちゃん

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