あーさん

真実のあーさんのレビュー・感想・評価

真実(2019年製作の映画)
-
少しだけ内容に踏み込んだ記述もあるので、知りたくない方はご遠慮下さい。







素晴らしい時間だった。


母と娘。
永遠のテーマだなぁ…。

昨年だったか、ベルイマンの"秋のソナタ "でガチンコの母娘対決を観せられ、それはそれはガツーン!とやられたのだったが、、
こちらは前半その雰囲気で来るものの、ラストはなんと優しい柔らかい着地、soft landing。。

なので、観た後はスーッと心が軽やかになる。
母にも娘にも言いたいことはあり、お互いに少し歩み寄れただけで、こんなにも関係が変わるのかと思う。

キャスティングの素晴らしさは言うことがない!
是枝監督らしいアプローチで、ジュリエット・ビノシュとの親交から思いついたアイディアを元に、イーサン・ホーク、カトリーヌ・ドヌーヴと思いを伝え合う中で、話の中身は着実に作られていったという(パンフレット、インタビューより)。
イーサンとリンクレイター監督の関係("6歳のボクが大人になるまで。"も素晴らしい作品だった!)を見ていた是枝監督は、彼の意見を作中に積極的に取り入れていった。何故ここでこうするのか?、この状況ならここはこうした方が…とイーサンの視点は、殊の外リアリティに拘っていた樹木希林のようだったらしい。
カトリーヌ・ドヌーヴを主役に選んだのは、他にイメージできる女優が日本にはいなかったからだそう。日本の映画界に貴重な存在であった樹木希林を失った今となっては、、ということなのだろうか。
いくつか例外はあるものの、是枝監督の特徴である監督独自の脚本で撮るやり方を私はとても気に入っているのだけれど、原作がなく現場で俳優陣と一緒に作っていくスタイルは無理がなく自然で、原作との乖離もなくのびのび作れるのが利点だと思う。
ただし、事前に作り込むタイプの役者さん泣かせだったようで、実際ビノシュは苦労したらしいが、途中から諦めたとか。。笑

日本人でありながら、言葉も文化も違うフランスを舞台にこんなに素敵な作品が撮れる是枝監督、あなたはやっぱり只者ではない。。
人間や物事の本質に耳を傾け目を注いでいれば、こんなにも素晴らしい作品が生まれるのか…。

キャストだけ豪華でも、それぞれの持ち味を引き出せていなかったら、ここまでの作品にはならなかっただろう。
引くところは引き、委ねるところは委ねる、そんな監督と俳優陣のコミュニケーションが絶妙!
それは、観ている者にも確実に伝わるし、作品の力となってその中に宿る。

主人公の大女優ファビエンヌ役のカトリーヌ・ドヌーヴの見事なまでの存在感、生真面目で繊細な娘リュミールをデリケートに演じたジュリエット・ビノシュ、緊迫しがちな母と娘の間にいて、ギターを弾いたり冗談言ったり、、和み担当リュミールの夫ハンク役はイーサン・ホーク、同じく和ませ役キュートでおしゃまなシャーロット役のクレモンティーヌ・グルニエちゃん♪
そして、マネジメントや身の回りのお世話、健康管理、お料理etc.ファビエンヌを陰で支える心優しき男達。。
素晴らしいチームワーク!

そして、今作のハイライトはこの人、劇中劇でファビエンヌの母役(とある設定の為、年齢が逆転する)マノンを演じたマノン・クラヴェル。
皆さん、大絶賛の通りだった。
印象的なハスキーボイス、大胆でもあり繊細でもある不思議な雰囲気は、まるでドヌーヴの実の姉で25歳で早逝したフランソワーズ・ドルレアックを彷彿させる。。素敵!ここからどんどん活躍しそうな女優さん♪
あのドレスのシーンは"ロシュフォールの恋人たち"で大好きだったドルレアックのことを思い出して、涙が止まらなくなった。

さり気なくドヌーヴのプライベートに近いエピソードをちょいちょい差し込む所も心憎いなぁ。。
劇中劇もシリアスなのに、ちょっとヘンテコで面白い。

音楽の使い方も控えめでありながら、ここぞという所では大胆に。

庭の木々達や一軒家の佇まい、、
秋のパリは風情があって良いな。


具体的な内容については、もう観るしかないと思うのでそれぞれで感じてもらうのが一番!自分の拙い言葉なんかで伝わるようなものではないからだ。

ただ、次のことを強く思った。

人間関係の中でも特に親子ときょうだい、場合により夫婦なんかについては、仲が良いとか悪い、とか一括りにできないものだなぁと。感情なんて日が変われば変わったりするし、隠れていた事情がわかる前とわかった後では、全く違った反応になるものだ。

相手に期待してしまうのは、それだけ関係が深いということ。
赤の他人なら上手くいかなければ離れれば済むけれど、肉親ではそうはいかない。

だから、今作の中で母と娘がやり合うシーンは緊迫するけれど、わかり合おうとする姿も随所に見られて、ああやっぱり母と娘だなぁと腑に落ちる。

深入りすると、毒親とかドロドロした世界に足を踏み入れてしまう所を、丁度良い塩梅で掬い取って、私達の前に提示してくれる。
是枝流の、
さぁあなたはどうする?
どう感じる?
共感とも違う、でも妙に納得させられるというか、何か人生の答えのようなものをもらったような、とても心地の良い気分で帰路についた。

どこから見るか、切り取るかで全く違った印象を与える"真実"。



私が今感じているのは、真実だろうか?
それとも時が経てば、移ろいゆくものなのだろうか…?


是枝監督に問われている気がした。





*パンフレットは薄いのだけど、監督のインタビューや樹木希林の娘の内田也哉子氏の寄稿、後は作中に出てきたお料理のレシピやパリの美味しいお店なんかが載ってて興味深く楽しいので、オススメです!
シックな色合いのドヌーヴの表紙もオシャレで、買って良かった♡
あーさん

あーさん