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真実のkomoのレビュー・感想・評価

真実(2019年製作の映画)
4.2
フランスの大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が、自身の過去を記した自伝本を刊行することになった。それを祝すため、娘のリュミール(ジュリエット・ビノヒュ)が夫ハンク(イーサン・ホーク)と幼い娘シャルロットを伴い、ニューヨークから帰省する。
しかし本の内容を知ったリュミールは憤慨する。そこに記されていた子育ての様子は、まったくのでっち上げだったからだ。
母と娘に険悪な空気が漂う中、ファビエンヌは新作映画の撮影に入る。
そこで競演することとなる若手女優は、ファビエンヌのかつての因縁の相手とあまりにも境遇が似通っていた。リュミールもその事に気が付き、それがファビエンヌの真実の過去を辿る足がかりとなってゆく。


是枝監督の作品は『そして父になる』しか観たことがありませんが、家族という一単位の中で、その当事者にしか味わえない感情の機微を描くのが巧い監督さんだと認識しています。
日本人の登場しない日本人監督作品は非常に新鮮でした。


フランス映画に似通った淡白さがありましたが、連綿たる会話劇が魅力的だったので退屈しませんでした。
作中、『ファビエンヌの出演映画』という形の劇中劇が登場します。ストーリーラインはそちらの方が劇的です。
そのストーリーは、【幼い娘を持つ母が病にかかり、その進行を抑えるため、生涯のほとんどを宇宙で暮らすことになる。宇宙にいる間は歳を取らないため、数年に一度地球に帰還すると、娘が自分よりも年上になっている】というもの。
ファビエンヌは、『年下の母親』に抱きしめられる、歳を重ねた娘役。
このサブストーリーがファビエンヌの家族に対するわだかまりと共鳴する仕組みとなっており、ファビエンヌの心の変化をとても自然に伝えてくれました。

女優業一辺倒で、娘への愛情が足りなかったように見えるファビエンヌ。
しかし実は、子育てに介入できなかった後悔と孤独に苛まれていて……。
ファビエンヌが自身の心の中の真実を認めるに至ったのは、成熟した娘リュミールと言葉を交わしたおかげでもありますが、その一方で、女優として役を演じながら得た気づきも大きいようでした。
フィクションである映画の中に自身の真実を見つけられるという点が、本物の女優だなぁと思います。
下手な女優であるくらいなら娘を捨てた女優でいいと仕事に没頭してきた彼女のスタンスは、一見残酷としか思えないですが、その女優魂こそが数年後に娘と自分自身を救うことになるのでした。

それから終盤でシャルロットがファビエンヌに言うセリフに痺れ、その後のリュミールとシャルロットの会話でまたやられました。この会話をさせるための劇中劇だったんですね!

映画スターという職業ではなくとも、仕事と家庭の間で揺れている人は多くいると思うので、そういう人にとって一種のガス抜きとなるポジティブな映画だと思います。
私はこの映画のおかげで長年悩んでいたことに答えを出せたので、観て良かったです。
心に引っかかっていることに折り合いを付けると気持ちがいいです。

イーサン・ホークパパにスポットを当てた特別編集も観たかったけど、また観れる機会があるかな?
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