噛む力がまるでない

劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~の噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

 武田綾乃の原作小説、そのアニメーションシリーズの劇場用作品の第3作で、2019年に公開された。

 2年生に進級した黄前久美子(声:黒沢ともよ)たちが、吹奏楽部の新入部員たちとぶつかりあいながら全国大会金賞を目指すというプロットなのだが、何しろ脇筋がけっこう多い上にややこしい問題ばかりで、それをなんとか消化してコンクールまでを描くのだからめちゃくちゃ忙しい印象を受けた。わたしは軽めのファンなので楽しめたが、原作を読んでいるファンからするとカットされたエピソードは多いらしい。

 1年生の久石奏(声:雨宮天)と久美子の衝突がメインで、『響け!ユーフォニアム〜アンサンブルコンテスト〜』だけを見ると奏はずいぶん調子のいい後輩という印象なのだが、こんなに面倒なやつだったのか……と驚いた。中学時代の経験のせいで演奏にめいっぱい打ち込まず、学内オーディションもわざと落ちるように仕向けた奏を見ていると、なんだか現代人のエンタメ消費のしかたを表現しているように思った。奏は数字や結果以外の芸術の意味を感じておらず、これはまるで安く早く娯楽を摂取して、感想もすぐ考察を漁るとか、ゆったり楽しむ余裕がない現代人みたいである。そんな奏に対して久美子は数字や結果以外の芸術の価値を見いだしており、まあシネフィルみたいな存在で、ファスト映画ばかり見ている若者とシネフィルの衝突という大変外れた見方をしてしまった。

 最終的に久美子は奏に「(全国大会に出られず)悔しい」という価値づけをさせるが、体をはって芸術の価値を教えてくれる存在の重要性を示しているところは、モノヅクリ論としても、またスポ根としても正しい。ただ、校内オーディションの下りで久美子と奏がケンカをしながら雨の中を走っていく演出は、正直ちょっと陳腐だと思った。2人の仲が一通り落ち着いてから空の向こうに晴れ間が見えるのも、京都アニメーションにしてはあまりにもベタな描写だ。