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愛がなんだのyuienのネタバレレビュー・内容・結末

愛がなんだ(2018年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

まずわたし自身の告白をします。あなたがきっと知らないであろういくつかのこと。
道行くあらゆる人からあなたの面影を見出して、時にはひとりで心が小躍りしたり、時には酷似した後ろ姿に、意味もわからずに涙が込み上げてきたりしたこと。あなたのデスクにいつも置いてある赤いネスカフェのマグカップになりたい、無造作に置かれたファイルでもその中に挟まれた書類でもなんでもいい、なんならゴミ箱でもいいから、あなたが日頃身を置く空間を共有させて欲しいと真剣に願っていたこと。わたしが資料を写メろうとしたときに、さりげなく冊子をおさえてくれたその手が写り込んだ写真をいつまでも捨てられずにいること。
まだまだある。あげれば枚挙にいとまがないほどに。それらを打ち明けたら、あなたはいったいどんな顔をするんだろう。正直、自分でも怖いと思っている。もっと健全に人を好きになれないのか、って。でも、優しいあなたは、きっと困ったように、やわらかく笑うんだろうなあ。それをみて、わたしはきっと泣きたくなる。

愛ってなんだろう。どうしてこんなにも、もどかしくて、切なくて、心はまるで酸素を求めているみたいに懸命に呼吸しているのに、ひとは懲りずに、だれかを愛さずにはいられないんだろう。
どうしてひとりの人間にこうも執着してしまうんだろう。すっごく小さいきっかけで不意に恋に落ち、自分自身ですら困惑するくらい、気持ちがひとりでに肥大化していくから、やっかいだ。思いは、まるで麻薬みたいに、もはや手懐けられない中毒症状に振り回されてしまう。

ここに描かれている男女のなんとも不毛な恋愛模様があまりにも共感できて、沁みる。そしてなんだかひと肌がとても恋しくなる、苦しくてもいい、いびつでもいい、恋をせずにはいられない。誰かと向き合っていたい。こっぴどく傷つけられたって構わない、恋する単細胞生物にでも退化させてくれ。

相手から恣意的に施される一ミリの期待も見逃さないように構えているテル子もマモちゃんも、はたから見れば、だっさくて情けなくて滑稽なのに、「だから、なんだ。」って胸を張って世界に宣言する、不恰好なその姿に肩を掴んで目を覚ませ!と怒鳴りつけたいのに、なんだか妙に勇気付けられたりもする。たぶん不器用であるという最大な共通点で私たちは繋がられているんだ。賢くひとを愛し、愛される術なんて、世の中にあるあまたな手引き書を読んだってちっともマスターできない。そもそも好きな人を目の前に、打算的な行動を起こせるほど、理性が正常に働いている訳ない。そうして、いつだってわたし達は恋愛の迷路の中で彷徨っている。

テル子の行動に対する失望と嫌悪はあっても、わたしは彼女を否定することはできない。彼女はただ、あまりにも自分に誠実に、全身全霊をかけてマモちゃんを想っているにすぎない。そんな風に傍若無人に、壊れながら、マモちゃんだけの背中を追いかけているテル子の必死だが、確かな足取りは羨ましくさえある。
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