娘として生きたい
たった10日間だけ、それだけでいいから。
裕福なお屋敷の給仕としてやってきた女性を見て女主人アナベルは消し去った遠い過去を思い出す。
女はキアラと名乗り、アナベルが昔に捨てた娘だという。
キアラは10日間だけ自分と過ごして欲しい。他には何も要求しないと言い、アナベルは恐る恐るその願いを聞き入れる。
互いにぎこちない。特にアナベルの触れることを極端に怖がる冷たすぎる態度が、キアラを思うと切ない。
「何が望みなの?」と、恐る恐る聞き続け、母親の顔をなかなか見せないアナベルに、キアラを捨てた後悔の念はないようだ。
キアラがなぜこのような願いをしたのか、途中から段々と分かってくるのだが、一向にその可能性を考えないアナベルに苛立ちさえ覚えてしまう。
それでもキアラにとってアナベルは唯一無二の母親なのだ。
アナベルがどんなに冷たくても、大人として冷静を保つキアラが、急に感情を爆発させるシーンが今思うと切ない。
ずっと我慢していたんだ。
35年の月日はやはりたった10日間で埋まるはずはない。
もっと早く気がついていれば、もっと早く迎えに行ってあげていれば・・・
覆水盆に返らず。やるせない気持ちにさせられるお話でした。