海

CRESCENT 冷たい海の底の海のレビュー・感想・評価

CRESCENT 冷たい海の底(2017年製作の映画)
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「海ってなあに」「世界の端っこよ」ぽつりぽつりと心の表面に浮かんでくる切なさは、果たしてさびしさかぬくもりか。母なる海と、砂浜で波を待つ子。あなたの頬と同じ鴇色をした記憶の中で、ゆっくりと奪われていく肉体の熱。夜明け前の青い時間だけがまるで本物のように果てしなく鮮明だった。美しいと感じるこの心だけを信じていても、見失ってしまうわたしたちのゆくえに、悲しむことも苦しむこともないの。わたしはわたし、あなたはあなた、どうやってそれを証明すべきかは分からない。抱き寄せる時も、その指を避ける時も、不安のほうがいつだって大きかった。わたしとあなたのことは、わたしとあなたにしか知りようが無いということが、大切であればあるほど怖くて泣き出してしまいそうになる。だけれどたったひとつ賭けをするのなら、より明るいほうにわたしはこの手を重ね、秋めいて肌寒い午後にでも、当然のように差す木漏れ日と同じように、神さまが、宇宙が、命の光が、あなたを見つけ出してくれることだけを信じている。

もしかするとどこかで、すごく私的な作品でもあるのかもしれない、と思ってしまうくらい、母と子を見守るまなざしがやわらかかった。傑作とは言えないし、良作かと聞かれればそうでない部分のほうがかなり目立ってしまうけれど、感情の隙間からそっと流れ込んできた、水のように冷たく温かい本作を、突き放すことはわたしにはどうしてもできない。
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