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ロケットマンのjyoのレビュー・感想・評価

ロケットマン(2019年製作の映画)
5.0
去年、日本で空前の大ヒットとなった『ボヘミアン・ラプソディ』をどうしても比べられてしまう映画だ。歴史的な大記録を持つイギリスのシンガーエルトン・ジョンの半生を描いている。しかし、『ボヘミアン・ラプソディ』とは違い、非現実的である意味映画らしいマジックを披露し、まるでフェデリコ・フェリーニが現代に21世紀に蘇ってエルトン・ジョンの映画を撮ったかのようだ。

主人公のエルトン・ジョン、本名レジナルド(レジー)・ケネス・ドワイトは様々な依存症に悩み、セラピーで自分の体験を赤裸々に話すオープニングから始まり、するとエルトンから見えていた幻が歌い出し、彼の少年時代と思われる時代へとワープしていく。そこにいる人々たちは歌い出し、完全にこの映画はミュージカル映画である事を観客たちは認識するようになる。ここが、『ボヘミアン・ラプソディ』と違うところだ。『ボヘミアン・ラプソディ』の場合は、歌唱シーンはすべてライブなのだが、『ロケットマン』の場合は、エキストラまでが歌い出し、しかもエルトン・ジョンの楽曲によってすべて編成されている。

しかし、ミュージカルといっても歌唱シーンは華やかで楽しいが全体的には暗さが漂っている。レジーは、音楽の才能を開花するようになるが、不仲の両親の間に生まれてしまった為、ピアノを披露してもまるで関心を持たない。なら、なぜ家にピアノがあるんだよと怒りさえも覚える。こんな愛を育もうとしない両親の前で唯一祖母のアイヴィだけが優しく接し、彼を支えていく。まるで『エデンの東』でジェームズ・ディーンに優しくしていたジュリー・ハリスのようであり、アイヴィは彼、そして観客にとっての聖母のようでもあった。

そして、いよいよ音楽学校へ入学し、才能を開花していき、若くして名声を得るようになる。しかし、彼の心は孤独である。彼のことをよく思っているような相手でさえも食って掛かりしだいに孤独になっていく。

前半の楽しさが後半になると一気に重たくなり、段々と彼が次第に転落していくのではないのかとさえ思った。しかし、これほどまでの転落っぷりをエルトン・ジョン本人は承諾して好きなように演出してもよりと快諾をしたというエピソードには驚いた。彼は他人の仕事には「口を出さない主義」であるらしく、製作者やキャストには好きなようにさせてもらえたらしい。だから、主役のタロン・エガートンは本人が歌うことができたのかと考えると本人の実力も間違いないがエルトン・ジョンの懐の深さをにも素晴らしいと思った。だから、『ロケットマン』が割と悲惨な映画に仕上がってしまったのは割と正解であったのかもしれない。

『ボヘミアン・ラプソディ』にあった浄化は『ロケットマン』にはない。

そのため、万人受けする映画ではないのかもしれない。しかし、エルトン・ジョンという人物を知らなくても、なにか変わった映画を観たいと思っている人にはもってこいの映画だ。

因みに本作をもっと楽しみたいのなら、『キングスマン ゴールデン・サークル』がオススメだ
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